嵌め込まれたひとみは頭蓋の中を旅した
いろんなところをめぐった
沙のさらさら無限におちる惑星
とおく燃えるそらいちめんに頭を垂れた 川縁の絶息のみじろぎ
森の匂いが窓から二階の一室に
ひそやかなおしゃべり
ああ、網膜にうつるひとの
生まれるまえに切りすぎた前髪!
この暖かい部屋の中でひとつの不具者だ
五感は危険を予知するためにはなく
ただ精神ひとつが
この世の断崖に追い込まれている
坂の勾配を無視するようだ
頂上から夕方の濃淡に接続するようだ
でも遠くへ行きたいと思うのは
元点があるからだよな?
おれは旅路を虚ろの海とした
はるか昔におまえが髪を切った日を
思い出していたのだ
なあ愛なんて適当なものだと
そう思わないか
あのときおれはすらりとした黒い髪に
愛をささやくことばかり考えていた
今になって
風にあそぶ金の髪
ざんばらに陽をすかすおまえの姿を
冬の日の種火のように思い出しているのだ
平明な救いに手を伸ばして
ほほえみを湛えるその姿は
もう糸が切れた人形みたいかい
それとも真理に触れた幸せな人?
いつまでもあるように錯覚する
見た目には呼吸しない呼吸する数々
何か忘れていることがあるの?
夕暮れをもっとしっかり見ようとして
風のせいに涙が
引き攣れた口角には愛は宿らないのか?
平明な救いに手を伸ばして
水のなかに遊ぶ泡の足取りを
真似したいと思ったけど
賢しらな唄は瞼をようしゃなく引き摺る
誰のせいだ?
空がこんなに重いのは
誰のせいだ?
軛がこんなに重いのは
石を打ち欠いていたころの夢は
消えてさよならして死んだ
襞が必要だ
きっと涙が折り畳まれていて
朝になると声をあげてぬるく溢す
何かが見えてるはずでしょう?
見えざる手に胸を掴まれたのでしょう?
不死身の体は
もういらない
弥終にたどり着いたとても
おまえの笑んだ顏をもう
瞳にみることはないのだ
ただまぶたの後ろにだけある
約束したいではないか
塵のおれにはもう約束しか
残されていない
おまえはどうだったろう
あるいはどうだろう
約束をしてもいいと思うか?
それが涙を拭うなら、と言うだろう
悪いことを数えても
焚き火する榾にもなりやしないわ
雲ひとつ追いかけたほうが
ずっとましだと
言ったのにあなたは死んだね
湖の周りには薄水色の花が咲いた
腐ってしまう目に見えない臓器
涙で治癒できるなら
とうにしているのだ
蹄の数をかぞえることで
意味を見つけようとした
もう森の中には入れない
言葉を言いながら
言いながらする顔をみせてくれたなら
もしももう一度ひとつだったら
太陽であり風のように
始めから言葉などいらず
海であり波のように
こうはならなかったのに
まだ夜にはほど遠い
涯にいることを信じたいのだ
善悪ごときに唆されないように
みじかくながい息をしてみる
最新情報
選出作品
作品 - 20180307_514_10299p
- [優] やぶにらみ改善体操 - たなべ (2018-03)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
やぶにらみ改善体操
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