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作品 - 20180228_089_10270p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


彼女の海

  白梅 弥子

真夜中にロングコートに素足で、足元に水溜まりを作りながら歩く彼女が好きだ


あのコートの中には母なる海があるから、水溜まりを作ることなんてきっと簡単なんだ


煙草を吸いながら歩いている彼女はなんの罪悪感もなく吸殻を捨てる


拾いあげてフィルターに残った真っ赤なルージュを舐めとる僕はこの世に要らないと思う


彼女を迎えにどピンク色の車が来た
運転席には立派なヒゲを蓄えた男が座っている
いや、よく見たらヒゲじゃなくてワカメを貼り付けていた
なんだって彼女はあんな奴が好きなんだろう


彼女はロングコートを脱ぎ捨てて車に乗りこんだ
車はそのまま行ってしまった


僕はその下半分がびしょ濡れのコートを拾い上げて匂いを嗅ぐ


ああ、もうこのまま死んでもいいと思える
コートのボタンを外さずに下から被る
そしたら彼女の大海原に入った気分になれるから
僕はそこにない彼女の足を愛でる
そこにない彼女の海を愛でる


もう夜明けが来たから帰らなくちゃ
僕は彼女のコートのせいだけではなくびしょ濡れになりながら帰路につく


今日も家に帰ったら
五寸釘をトイレに流そう

文学極道

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