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作品 - 20180213_541_10252p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


逃走する焦燥

  游凪

まだ柔らかい太陽を捕まえて逃げる
泥だんごをぴかぴかに磨いてその身代わりにしておいた
吐いた息が舌に絡みついてうまく息が吸えないから
過ぎ去った日々に隠れることにした
黙殺された金曜日に男は死んだ
子どもの頃に抱いていた左に首を傾げたお人形が
男にとてもよく似ていた
毛先を剃刀で整えて微笑んだ鏡の中
幾つもの顔があるのに誰も視線を合わせてはくれないから
化粧ポーチにそっとしまう
OLの鞄が重いのは広い砂漠をしまい込んでいるからだ
ラッシュの電車で赤ん坊が泣いても耳を貸さない
サラリーマンのシャツの襟には汗と垢が黒ずんで
それを誇りにするのは気持ちが悪い
昨日した口論は不法投棄された
ゆくゆくは児童公園の砂場に埋められて山になる運命

四つん這いになって貪った野良犬の縄張りを死守する夜明け前
石ころと化した星屑の残飯にありつける
甘い金木犀の香りが救いようのない怒りを沈静化しても
移ろう季節を有耶無耶に先取りすることができない
偽りは罪だ、創作だとしても
汚い声をあげる鴉が米粒を狙って体当たりしてくるから羽根を毟ってやった
これは断じて羨望ではない
少しだけ早く産まれたが規則正しく死んでいただけだ
吐瀉物に塗れただけなのに美しくなれると信じ込む人間は少なくない
隔離されたら夜の街を歩き続けられる
目にした光景を次々に忘れながら

精液はさらさらで馴染んでくれるから
愛の囁きなんかより信じられた
不忍池に浮かんだ男は雲ひとつない空を見上げている
半開きの目で昇り始めた泥だんごの位置と甘さの調整をする
太陽の熱と違うので鍋の餡を焦がしてしまった
今日は豆大福がショーケースに並ばないしコンビニではあんパンが売り切れている
撃鉄がズレていて弾けない男は射精しない
仰向けのまま崩れていく
男を隔てる境界が曖昧になったら好きなものだけ選別してと融合しよう
例えば、へその緒で繋がった赤ん坊、陽の当たらない桜、Instagramの甘ったるいスイーツ、経管栄養をしている老人、風俗看板と電柱の吐瀉物、躁うつ病の薬を投与されるマウス、東京タワーから見えた赤い屋根、プラットフォームで白杖を掲げる人、渋谷ハチ公前で待ち合わせする少女のふくらはぎ、
猥雑な混沌は男を分解する
掻き集めて太陽を芯に練り込んでお人形の形にして抱きしめる
これは再会でないはずだ

文学極道

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