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作品 - 20171226_237_10124p

  • [優]  変成 - 宮永  (2017-12)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


変成

  宮永



あまりに大きすぎるカラダは私の視界に余
りました。竜がその巨大な肉をくねらせる
たび、鱗が立ち上がります。私は狂喜しま
した。山だ!山肌だ!岩々は柔らかに連な
りながらササクレ立ち、その元には黒々と
した影が差し、私はその暗い陰に深くツメ
をさしこんで、ゆっくりともちあげるのを
想像するのでありました。庭先の石をはぐ
ればハサミやワラジ虫たちが慌てて転がり
出ます。そんな嬉しさを思い起こしはした
ものの、この暗がりの奥底に温い肌があり、
熱い血が流れていることを、やけつくよう
な痛みが生ずることを、愚かにも、我が鼻
の穴から生えた毛ほどにも思ってみなかっ
たのでありました。私はひび割れた、声を
あげました。


剥がされ、晒された痛みはまるで、焼きゴ
テをあてられたようでした。おかげで空気
がカラではないことを、私をぐりと囲い込
み、動けば擦れるということを、大気か、
私かたえず蠢いていることを思い知らされ
ることになりました。私は息を殺しました。
地上において、私はコップの中に酌まれた
ようでありました。トン トン と、滴が
私をたたくたび、何とか呑み込んできたの
です。なみなみと注がれた私は、すでにふ
るふると揺れています。でもまだまだこの
まま、丸く盛られた表面に虹をうつして、
微睡んだふりをしていられるはずでした。
いつ、どこで落ちてきた、どんな滴かはわ
かりません。たぶんそれはいつもと何ら変
わらない一滴であったのでしょう。けれど
も私は流れ去ったのです。

文学極道

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