#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20171222_170_10114p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夢の人

  

世界が
存在のスープである以上
すべては
無の見ている夢にすぎないのです
青臭いですか?
その嗅覚は老いの証です
人は宇宙の膨張に合わせて
急速に真実から遠ざかっています
たとえば
忘れられない人は
今でも雨の中に立っています
明け方の夢で
それを見る私は
懐かしさに侵食されて
死体のように眠ります
あるいは私自身が
生きているという夢を見ている
青臭い死体なのかもしれません
教会の屋根の十字架は
高性能のアンテナです
だけど
誰も受信機を持っていません
大切なメッセージを
とらえることはできるのに
それを検波し
増幅する手段がないのです
ただ時折
午後の微睡みの中で
わずかに伝わってくる
哀しげな気配を
感じることがあります
それは降り続ける
雨の匂いに似ているけれど
わずかな違いがあるのです
そんなことを考えている間にも
今も降り続ける雨の中で
立ちつくしている人は
夢ですら届かない場所へと
遠ざかり続けているのです

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.