雨が嫌いになったのはきっと君のせい
降り出す前の灰色の憂鬱
ひきつれて爛れた美しい傷が痛む
鼻腔の奥で煙草とコーヒーの匂いが混じる
小さな魚が飛んで跳ねて
厚い雲の上でクジラになった
遊泳する巨大な白い塊は
潮を吹き上げて雲を散らした
空は近くなって手を伸ばすことを躊躇った
滑空する燕と軌跡をなぞる指先が
唇に触れて柔らかな熱をもつ
伝導する心臓と同じ温かな鼓動
メトロノームの刻むリズムは
洗われた野良犬のお腹
弱々しい光に照らされて
やがてくる夕暮れ
遥か上空に漂う海の蒼さを忘れて
瀕死の太陽は落ちていく
音もなく雨は降り出し
最初の一滴を今日も取り逃した
残されたスクランブルエッグの気持ち
生まれたての今に触れたくて
遮るものは厚い雲だけだった
クジラは名も無き星になっていた
湿った身体は震えている
怯えたように強ばりもする
君も少しだけ冷えていて
二人だけのやり方で
互いの温度を確かめ合った
何も必要ではなかった
ただ君という熱があれば
鼻を擦り合わせて宇宙を見つめる
瞳の奥で光る流星群
飽きずに天体観測の記録をした
星図は新しく描き変えられた
壊れかけの玩具がラベンダー畑の中を歩く
紫色の幻想と褪せない夜の夢
誰かを追っていた気がする
誰かに追われていた気がする
視界が僅かに上下して
揺らめいては滲んでいく
音もなく急速に色を失っていく
煌めいた星の最期を看取った
交わした約束を無くしても
その痕が完全に消えても
少しも涙は出なかった
形はもう意味を成さない
変わりようのなさに安堵して
雨の中やっと眠ることができる
死のようなこの眠りを永遠と名付けた
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選出作品
作品 - 20171215_002_10096p
- [佳] 永遠 - 游凪 (2017-12)
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永遠
游凪