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作品 - 20171201_734_10068p

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湖底の朝顔

  游凪

一晩で枯渇した湖の底を歩く
横たわる群青色の夜の匂い
静寂を行方不明の影が彷徨く
湿った老犬が自らの大腿骨を齧っている
浮草がへばりつく泥濘と
点在する緩やかな水溜まり
朧気に映る二つの月の共鳴
先祖返りした朝顔が咲いている
螺旋する蔓の青さ、揺れる燐光
濃霧の中で仄かな光だけがしる、し
浮かぶ美しき想い出に眩暈がする
左腕が引き攣る
噛み過ぎたかつての傷痕が

深淵の監視者に拉致された、
あの甘美な孤独の日々
低い天井には僅かな星のみが瞬く
交わらない生、の生臭さ
持ち合わせの欲求に嫌悪して
痩せていく心臓は静かに漂流する
曖昧な境界は容易く一線を越えて
解き放たれた重力の足枷
骨の浮いた身体は重く沈み
浮遊する魂と冷たい星屑
手放す意識の切れ端が滲んだら
呆気なく太陽は死んだ
感情のない体液を垂れ流す、
これは正しく病気である

日々はやがて乳白色と混じり
病んだ猫の粘膜を優しく拭った
長い長い夜の果てに揺らめく小さな焔
そこから生まれた恒星は
星座を描き、月となり太陽となった
満たされた湖に揺蕩う月光
瑞々しい群青色の夜の匂いが
微かにさざ波立つ湖面に浮かぶ
その畔に佇んだ名前を持つ影
褪せることのない想い出は湖底へと沈めた
螺旋する蔓の青さ、揺れる燐光
今も水底に朝顔が咲いている

文学極道

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