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作品 - 20171120_445_10035p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


A couple of

  アルフ・O


“応え(こたえ)から一秒遅れて吹く風に、カーディガンすら甘く弾けて”

 「そうね、みなしごだって思うのあたしたち。貴女のイニシャルが施された胸の印を鏡で見る度に、屋上の柵の上に立って歩いてみたくなるわ。今なら俄か雨だって操ってやるの。広すぎるこの天蓋をすぐさま地上に引き摺り下ろすだけの力も、呪文も、貴女は知っているのにいつまでも使ってくれないから。鼓動が共鳴しているのが判ったってどうしようもないじゃない。ねぇ、だから抱き締めていて、もっと強く!」

“むつごとは羽根を散らして果てるのみ君の名の海はなほ遠のきて”

 残骸が散らばっている。ガラスの空の残骸が。竜骨を蝕まれながらこの船は何処にも到達しないことを、ふと想う。傍には自分よりはるかに、さらさらと光を含んだ、長さはお揃いの栗色の髪。血の代償を省いて徒らに虚無を孕んでゆくこの身体に、できることなら君を触れさせたくなかった。けれど、もう遅い。もはや私は私に、呼吸すら赦していない。バイオリンの声を永遠に穢したのだから。抱き留めるならそのまま心臓を潰してよ、
 
“底に降る雪を掬いて灌ぎける融けきるまでの熱の交換”

 「息を殺さないで、ただでさえ凍え死にそうなのに。泣けなくなった分だけ感情が貴女の身体から逃げ場をなくしているのなら、あたしの胸に直に触れて。そうしてお互いに脈をコントロールしてしまえばいいわ。知ってるでしょう、愛は無限に有限なんだって。折りたたまれたページにそう書いてあったわ。あたしもその言葉をたよりに生きるから、ねぇ早く、彷徨っているあたしの半身をここまで叩き落として」

“傷負いて疾る君の背を見送れり口つぐむべしナトリウム灯”

 そしてこの廃屋でどれほど立ち尽くしていたのか。みずから揺らし続ける視界はもはや数年経って咲くはずの花も迷いなく腐らせている。(砕ケ散ルホドノ嘘ヲ私ニ施シテクダサイ)。耐えられなかった君。幸か不幸か空を飛べるように契約したから、これから手渡せなかった魔法を振り撒きに行くよ。Maybe it’s raining as saying farewell.

文学極道

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