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作品 - 20171101_942_9993p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


比喩の練習

  芦野 夕狩

ましてや他人の子供だからさ。と、うつむけた額と額でキスをしたら、まるでニューロンが結びつき合って
強く、強く生きていけるね、と(信じてるみたいに)、二つの大きな影が、寝室へと消えていく
気を付けて その敷居は国境線だよ 声にしたくてもなりえない
夜の、夜の、夜の、夜の湖のように、ね。それなら、僕も
神様の見えない運動が僕を作ったんだと信じてもいいかい?

いや、それはむしろ宇宙の摂理だよ
と神父さんが笑う。わかりやすく言えば宇宙だって
朝、目が覚めて腸が動いていないうちに朝飯をかっくらって
10分そこらで髭を剃って歯を磨いて家を出て
KAWASAKIの250ccにまたがれば、その振動でいやでも糞をしたくなる
君を作ったのはたぶんそのKAWASAKIの250ccの振動だし
糞だっておしとやかに言えば、神様の見えない運動とも言えなくもない
神父さんは神を冒涜するのが好きだ
そして孤独だった
2005-06シーズンのフィラデルフィア76ersのアレンアイバーソンみたいに孤独だった
寸分の狂いもなく正確に客席に狙いを定められた3ポイントシュートみたいに
無意味だったし
その軌道を愛していた

あなた知らないの?
とエミリーは8頭身の人形がたくさん置かれた部屋で目を丸くしていた
ある人形はぴたりと腰に右手をのせ、もう一方の手でその金色の長い髪を払っているところだった
知らないなら教えてあげましょうか?
僕にはそのポーズが何を表しているのかわからなかった、けど
何かを表していることはわかった
神様の見えない運動
エミリーがそう耳元で囁いたとき、たぶん、世界は止まっていたと思う

家の門を開けて
玄関にたどり着くまでのあいだには
必ずフリックが駆け寄ってきて、僕の帰路を少しだけ遅らせてくれる
庭の脇におかれたフリスビーを投げると
フリックは一直線にその軌道の先を捕まえようと走り出す
僕はその後姿が好きだ
迷いもなく駆け出せる足が好きだ
遠くで、太陽が沈んでいる
まるで寸分の狂いもなく正確に客席に狙いを定められた3ポイントシュートみたいに
いつまでも得点は入らない

あまり遅くなるとパパとママが心配するからね
フリックをおとなしくさせて、家のドアを開ける
果たして僕は、彼らの子供に似ていられるだろうか

文学極道

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