#目次

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芦野 夕狩

選出作品 (投稿日時順 / 全23作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


サイテーだって知ってる

  ユーカリ

スーパーにお魚を買いに行く途中に
買い物袋を忘れたことに気づいて
アパートまで取りに戻り
ついでに履歴書に貼る写真も撮ってしまおうって
クリアファイルも持って出かけたら
空が嫌な感じで
さっきまで世界の果てまで快晴です
みたいな感じだったのに
雨が降るのはさよならのせいだね

急遽傘も持たないといけなくなって
窮屈になった身体が
少しだけ雨に濡れたりして
汗と一緒になって
すごく嫌な感じで
それとヒールなんか引っ掛けてきちゃったから
足元も気をつけないといけなくて
下ばかり向いて歩いていたら
排水溝のところで
タバコの吸殻がくるくる回っていて
すごく不健康そうにみえるあぶくが浮かんでもいて
そういう退廃にまた身を委ねてしまうのは
全部あなたのせいにしたくて

買い物も済ませて
履歴書に貼る写真をみると
こんな顔だっけとか
なかなかにありきたりな感想を抱いて
でも急に老けたりしなくてよかったな、とか
不摂生による甚大な被害を免れたことで
まだ自分は誰でもいい誰かに女として
必要とされる未来もあるのかなって思えて
誰でもいいというのはとても気楽だから
雨が止んだのはとてもいいことだと思う

家で一人になるとどうしようもなく空っぽになるから
テレビをつけてどうでもいい言葉を聞く
どうでもよくない言葉から逃げてきたから
そういうの、とても心地よく感じる
すごく無意味で、おやつみたいに栄養がない
誰かを傷つけるよりも
自分を傷つける方が100倍マシだね

3日前に連絡無しでやめたバイトから
しつこく電話がかかってきて
すごくいらいらしてしまうのは
それ以外の電話を待っているからじゃないんだ、って
あなたのこと着信拒否にして
自分が不幸になることに完全なアリバイをつくる

知り合いの男とホテルにいって
セックスもしたし
もう大丈夫
ちゃんと堕ちていけるよ

インターホンがなったからびっくりして
レンズ越しに覗いたら宅配便だった
ダンボールをめちゃくちゃに開いて
そういえば壁掛け時計を買ってたなって思い出した
同じ時間で生きていくんだもんね、とかそういう
正しさに裏付けられた言葉は強いね

そういうの
優しさとか、誠実とか
なんでそんなに簡単に透き通ってしまうかな
もっと人間らしく淀めばいいのに


夏が終わらないこと

  ユーカリ

近くの小学校で行われる夏祭りは
屋台から漏れる橙色の灯りや
人々の喧騒や和太鼓の響きを伴って
私にその存在を示していた
でも私はずっとそれとは反対の
日の沈んだ方の空を見ていた

翌朝、件の小学校に足を向けると
お祭りの残骸がまるっと
セミの死骸のように
グラウンドに転がっていて
それに群がるように
熱気から覚めた人たちが
懸命にその痕跡を消そうとしていた

子供達も若干数いたけど
屋台をたたんだり
櫓を解体するのは男の仕事らしくて
捨てられたゴミを拾い終わると
子供達は日陰で涼んで
最近はやりのゲームとか
そんな他愛のない話をして
みんなまだまだ夏休みが終わらないことを
信じているみたいだった

予想通りあまり若い女性はいなかった
鄙びた土地ではあるけど
私がここにいた頃から、若い女の人が
町内会で頑張っているなんて話
聞いたことなかったし
私のことを知ってる人には絶対に
会いたくなかったから

男の人たちは年齢もまちまちで
みんな汗を流しながら重たいものを持っていて
若い衆、とか呼ばれていそうな人も数人おり
その一人がなんとなく
嵐の櫻井くんに似ている気がして
でもすぐに遠くに行ってしまったから
残念だな、とか
そういう軽薄さが私にとって
今はすごく大事なことのように思えた

夏が終わらないこと
サマーイズエンドレスであるということ
私の浴衣には魔法がかかっていて
たいして可愛くもないのに
おばあちゃんはいつも
べっぴんさんだね、って
言ってくれていたこと

櫓の最後の木材がトラックに載せられ
男の人たちは特に感慨深げでもなく
淡々と帰るべき家に帰って行ったのだろう
先ほどまでグラウンドに転がっていた
お祭りの残骸は跡形もなくなっていて
グラウンドの真ん中に立ってみても
人々の喧騒や和太鼓の響きも
当たり前だけど
何も聞こえなかった


すべてのものに終わりがある、サーカスであろうと夏であろうと

  ユーカリ

 ねえ
ギターのFコードの抑え方知ってるかな
人差し指で全部の弦を抑えないといけないやつ
わたし手がすごくちっこいから
すっごく難しくてさ
すっごく苦労したんだよね、
なんて関係ない話は置いといてさ
たとえば
ギターのFを抑えて
そのまま1フレットずつ
音を高くしていくの
決められたコード進行じゃない
別にマイナーでも
セブンスでもサスフォーでもなんでもいい
そうやって1フレットずつ音を高くしていく
そうやってでたらめに
時に不安げな音の響きも混じって
でもなんとなく前向きな感じで
音を昇り続けたら
空から垂れ下がったほころびの
猫のしっぽのような感触が
頬に触れるような




サイト名:ある日常の。
エントリー名:編み物のほころび
日付:2009.8.29


編む、という言葉は適切ではないのかもしれないね
歴史学者をこじらせてしまったおかけで
サマーセーターのほころびに留まる視線は
よろよろと浮浪者めいた足どりを辿り
あらゆる忘却の境界線をなぞりながら
滑り落ち
床に転がるのだろう
もはや視線とも呼べない
宛先不明の
ちょうど瓶に詰められた
手紙のもつ
哀しみに似ている
編む、というよりもむしろ、ほどくような
そんなこと言っていたらせっかくのカレーが冷めてしまうのに
でもそれも違うような…わからない
問題はせっかくとろとろになるまで煮込んだ
歴史の天使の話、前にもしたかもしれないけど
にんじんを台無しにするような
ベンヤミンという哲学者が「歴史の概念について」という遺稿に記した
あなたのそうやってすぐ考え込んで周りのことまでわからなくなる
あの天使のことをいつも考えてしまう
悪いくせなんだけど、もう諦めた
天使が過去を見ていて
手つかずのお皿にラップをかけたら、まだ冷め切っていなかった
天使は過去を見ているというよりも、過去に敗れ去ったものたちの
白く曇ったお皿をふたつとも冷蔵庫に入れてしまうと
破局、とベンヤミンが表現する
椅子に座り、彼のこと見ているふりをして
瓦礫のように崩れ去ったありさまに目を見開かされている
私は壁に掛けられたサマーセーターを見ていた
天使は進歩という嵐にいまにも吹き飛ばされそうになっている
セーターは最初はもっと爽やかな色だった
僕は今まで国家や権力が綺麗に編んできた歴史が
初めて会った時これを着ていたことなんてもう覚えていないだろうから
ほころんでいるところから全てを始めたいと思っているだけなんだよ
ほころんでも色褪せても捨てられなかったことの無意味さに少し奥歯が痛んだ




サイト名:2ちゃんねる
スレッド名:【☆祝☆】今日から忍術修行始めます【水走り習得】
レス番号:357
日付:2013.9.1


救済ですね
聖書を鞄にしまいながら、女は言った。女はちょうど聖書を仕舞い終えると、祈るかのように両手をテーブルの上で組み、僕を見つめた。僕はその瞬間の出来事をとても上手に思い出すことができる。例えば彼女の頼んだメロンソーダはまるで和式便所みたいな奇妙な形をした容器の中でぶくぶくと泡をたてていたし、僕のアイスコーヒーはその時入れられたガムシロが火砕流のように緩やかに、けれどもアイスコーヒー本人からしてみたら緊急なのかもしれないけど、黒い液体を侵食していく最中だった。窓の外ではスカートを履いた女が通り過ぎていくところだった。或いはスカートから伸びた生白い太腿が通り過ぎただけなのかもしれない。とにかくその薄青いスカートから伸びる生白い太腿の肌理はそれぞれとても丁寧に収まっていて、理科の教科書の細胞の章の最初ページに載っている写真みたいに適切だった。一部分その一つ一つ肌理が崩れているわけではないのだが、およそ120から130あたりの肌理がそれぞれほんのり赤く染まっていて、或いはその脚がさっきまでどこかのベンチに押し付けられていたことが想像できた。ほんのり赤くなった地帯は喫茶店の窓枠を通り過ぎる間にだいたい90くらいまでの肌理に収まっていき、もう少し経てば綺麗に痕も残らないだろう、とそう思った。ただその脚が窓枠から消える瞬間、その肌理の適切な収まりの所々から覗く毛穴が無数の目のような在り方で僕を見ていた。千円札を財布から取り出しテーブルに置き、すみません、とだけ言い残してその脚の行方を追おうとした。救済は、という女の探るような細い声が後ろの方から聞こえてきたのを覚えているが、僕は振り返らずに脚を追って外に出ると、そこには多くの人たちがいて、多くのスカートから伸びた生白い脚があって、さっき僕をまじまじと見つめた太腿を見つけることは叶わなかった。その場で失望の縁に腰掛けるように蹲ると、背後でカラランと音がなり、救済が追いついたことを知った。僕は救済を見つめると、その首元の肌理は所々で適切ではなくなってしまっており、大部分で黒ずんでいたし、いま切った木の切断面みたいにカサカサとしていた。肌理の乾いた大きな黒目は全体として僕を見ていたともいえるが、それは背景の一つとして、まるで肌理の一つ一つを見つめることなく脚そのものを見ているみたいに、阿呆のやり方で眺めていた。ただ補ってあげたいという思いのままに、救済の首元に手を伸ばした。僕の掌の肌理の所々から余分な皮脂が分泌されていたし、救済には明らかに水分が足りなかったから、僕はただ補ってあげたい、という思いだけだった。女はきつく睨みつけたまま、その視線を動かそうとはしなかった。救済は徐々に強く腹あたりを蹴りつけ、僕は鳩尾にはいった一撃に呼吸がうまくできなくなり、地面に崩れ落ち、意識が剥がれていくさなかに、誰かに、何かに救われたかった男の物語を思い出していた。




サイト名:エンジェル日和
エントリー名:さよならを反対から読むとらなよさだよ
日付:2008.8.22


最悪色した あなたのさよなら

わたしは泣き虫色 あなたは玉虫色

What あなたの心の色



夏という季節に 身を横たえる白雪姫

王子様はいつだって 気まぐれなキッスをする

When 優しさに包まれる日



いつまでも待っている oh my summer

波があなたを届けてくれる oh your surfin



だからメイビー届かない思い

ずっと胸に抱いて眠り続ける endless

天使が甘いキッスをしても

あなたじゃなければ目を覚まさない



たくさんの女に許している唇も

わたしにキッスをする時だけは

I believe

月光に濡れて本当の色になる I believe...




サイト名:ひめるのブログ
エントリー名:サマーソフト
日付:2013.9.29


夏の終わりにはサマーソフトを聞くんだ
そう彼女は得意げに言った
英語わかるの
そう聞いたら
なんとなくね
そうしたり顔をする
だったら今ここで同時翻訳してよ
そう困らせてみても
いいよ
そう答えてにこにこしている
じゃあ、と言って携帯でサマーソフトを再生しようとした
彼女は少しだけ待ってといって
心の準備をしたのか
わからないけど
かかってこいよと言わんばかりの笑顔で
いいよ、と言った
再生ボタンを押す
さぁまそー
スティヴィーワンダーを意識した繊細ふうな声で歌いだした
え、翻訳は?
今からするつもりだったの! やり直し!
怒られたからもとに戻してもう一度再生ボタンを押す

さぁまそー
不思議な金魚がー
いつか
バナナになってもー
適当に
やり過ごしてください
朝でーす
みんな起きてください
朝でーす
不思議な金魚をー
迎えに行きます
めっちゃサンシャインですよねー

ちょっと待って今サンシャインってそのまま言ったよね
そう聞くと
だってそうとしか訳せないんだもん
そう嘯いた

僕たちは終わりかけの夏に腰掛けて
意味のない言葉のやり取りで
色んなことをやり過ごそうとしていた
コンビニで買ったアイスが
ベンチの脇に置いたビニール袋の中で溶けていった
そもそもサマーソフトってなに?
そう聞くと
わかんないけど多分なんかもふもふしたものだよ
そう答えた


キッチン

  ユーカリ

親子丼ですね、はい、分かりましたよ。そう言ってしばらくの間なにもできないでいるのは、あなたの帰りが果てしなく遠い出来事のように思われるから、ではなく、わたしの立つキッチンがとてつもない怪物のように、わたしを捕らえしまうことだということを、あなたにはわかっていただこうと、むかし、足掻いたこともありましたね。

言葉足らずで、とてもじゃないけど伝えられることなどできなかった、あのキッチンの孤独というのものを、と思いかけたところで、ふと、親子丼を作るための、あの折れ曲がったスプーンのような鍋の名前を知りたくなり、そうこうしているうちに、鶏肉は解凍されてしまいましたね。

一口大に切り分けたあなたを醤油とみりんで味付けしただけの汁の中に浸すと、そういえば、玉ねぎを忘れていたことを思い出し、あわてて切って入れたものですから、少し指先を切ってしまい、傷口から赤い血が流れていて、けれど痛みはなく、というよりも痛いと思うわたしがいなかったのかもしれない、と思いかけたところで、立ちくらみがして、少しの間リビングのソファーで横になっていることも、また許されるのでしょうか。

いかほどの時間を眠り続けたのでしょうか、多分、ロッキーがエイドリアーン、と叫んで、エイドリアンが応えるまでの時間を1エイドリアンとしたら、249エイドリアンくらいの間ずっと、わたしは、と思いかけたところで、火を消し忘れてはいないか、と、大急ぎでキッチンまで戻る、と、夕暮れ中で抱き合う恋人みたいに、火は消されていて、潮汐に浸された約束の洞窟のように、火は消されていて、遠浅の海に滲む夕日のように、わたしは、消されていて、

コツコツとあなたを半分に割って、白濁した液体が、気狂いじみた黄色を呑み込んでいる、それを、あぶくが飛ぶまでかき混ぜてしまう、と、あとは底の浅い鍋に流し込んでしまうだけであろう、と、思いかけたところで、わたしが、突然泣き出していて、それはどういうことなのか、申し上げます、と、結局、何をやっても長宗我部だし、いつまでたっても蘇我入鹿ですから、そういえば、あなた、むかし、わたしが精液というのは、卵膜を破ろうとするから、同じように、眼球にかけたら、大変なことになりますよ、と警句をお伝えしたことがありましたよね、そうして、わたしの眼球から生まれてきたのが足利尊氏で、いつまでたっても鎌倉幕府が訪れないから、死体、をタカウジと埋めに行きました、もちろんそれは後醍醐天皇の死体にございますよ(もちろんそれは後醍醐天皇の死体にございますよ)

タカウジを幼稚園まで迎えに行き、先ほど作り上げておいた親子丼を食します。海苔はかけます、紅生姜はいりません、タカウジは年のわりに、肢体が大きいので、対面しておりますと少し変な気持ちになることがございます。タカウジがご飯粒を噛みますと、ご飯粒は、0.01エイドリアンのうちにひしゃげ、ぐちゃぐちゃになりますね(cha-cha-chaぐちゃぐちゃと口を開けながらなにかを召し上がることは、たいへんに不躾なことでございますので、およしになってくださいね、と、思いかけたところで、タカウジが、ぐちゃぐちゃとご飯粒を次から次へと潰していくのを見ておりますと少し変な気持ちになることがございます、と、思いかけたところで

サランラップをしておりますと、あなたの睾丸が、あかあかと、はち切れんばかりになっておりますから、握り潰しますと、あとはただ、落ち零れていくだけの夕日でした


2011

  芦野 夕狩(ユーカリ)

教室にはわたしたちの他にだれもおらず、あたしたちもうぺちゃんこだね、というナナエの言葉に、ふかくため息をついたアヤコは、うつむいたまま自分の胸を見続けていて、差し染める西陽が、アヤコの輪郭だけを特別な彫刻のように、かたちづくる限り、わたしたちは誰ひとりとして、その滑稽な誤解を解くことも叶わずに、非行少年が、ふとした瞬間に海を見たくなり、海に誘われるままに、そのかいなに抱かれる、あの、言葉を失った瞬間、みたいな顔で、いつまでも終わらないこの日常の果ての果ての果てを、見届けることなどできないと知っているから、うすく、ひきのばされた薄紅色のゆううつを、滑るように息をしている。

黒板に書かれたたくさんの正しいが、どれ一つとして正しくないのは、わたしたちが、水に歪められたかなしみを、どこまでも掬えずに、とりとめもないふしあわせを、いきつぐ、ように 、酸素の濃度でいきついでいるだけのことだ、と、知った、あの春の、春の、水に浸された結末の、さいごの音がいつまでも鳴り止まない、そんな日常の、yesでもnoでもない、問いかけの解法を見つけ出すことができないから、アヤコのうつくしい輪郭線をたどるようにおちていく西陽のゆくえに、いかなる意味もみいだせないこともまた、

アメリカにも雨は降るんだよ、と、ナナエは黒板の正しいを向きながら言い、わたしたちはアメリカなんか一度も行ったことがなくて、それはナナエも一緒なんだけれども、アメリカにもまた、あの陰惨な時間が流れうることに、どうしようもない驚きを隠しきれずに、アメリカにも雨は降るんだね、と繰り返し囁くことしかできずにいる、アヤコのからだは、もうすっかり痩せてしまっていて、黒板消しを置くところに降り積もった、チョークの粉をずっと見続けているのは、近所にあった、リタリンを違法に処方してくれていた病院が、摘発されたことと、おそらく無関係ではないのだろう。

あたりは夕闇に包まれ、アヤコは暗闇に怯え出し、ナナエはそれを見ないふりをして、そろそろ出勤だから、と言い残すと、かんたんな呪文を唱えて、校舎の鍵を作り出し、それをアヤコに放り、それを受け取り損ねたために、教室に転がる鍵を、アヤコはいつまでも拾おうとしなくて、暫くのあいだ沈黙だけが教室にあふれ、そして、おしころされた嗚咽が沈黙を破り、暗闇のなかで、アヤコの鋭い視線が、戦場で狙撃兵のスコープが光るみたいに、わたしのこと、見ている。


2016

  芦野 夕狩

虹岡さんは昨晩夢の中
ソープランドで若い女性二人を相手に
大立ち回りをしたらしく
別にわたしに言ったわけじゃないんだけど
なんか若いって言葉を
妙に強調したような気がしてならない

そんなことが頭をめぐる車中
尾瀬さんの原稿を取りに行くために
ありえないような細い路地を通らないといけないから
カーブミラーが当たらないように
犬を踏み潰してしまわないように
ありえないくらい慎重に運転したんだけど、さ

尾瀬さんはとりあえずお茶いれましょうか
とか言って
これは烏龍茶なんですけど、白桃烏龍茶と言ってとても香りがいいのよ
とか言いながらいっこうに原稿を渡してくれるそぶりを見せない
まあ、いつものことなんだけど
このババア、ぶっ殺してやろうか
とか
臼井さんは言いそうだな
特にパチンコで負けた次の日の臼井さんは言いそう

その臼井さんに、まあ原稿はいただけませんでしたよ、と
報告したら、笑っていたのでパチンコで勝ったのかもしれない
そもそも尾瀬さんは本当の締め切り知らないから
と言われて、まあそうだよな、と
あの人締め切り過ぎないと書かないからな

仕事が煮詰まって
なんか、まあ
駐輪所の傍にある喫煙スペースに顔を出したら
いつも通り森井くんが思案深げにタバコ吸ってて
ヤッホー
とか言っても
どうも、って言ったきり会話続かないし
まじあのコミュ力でどうやって仕事してんだろ、あいつ
って真里ちゃんが言ってたの思い出した

まあ、でも一応クリエイティブな能力とか
よくわかんないんだけど必要なとこもあるんじゃない?
ってお茶を濁しても
はいはいクリエイティブクリエイティブ
みたいな共通認識芽生えちゃってるから
まあ、なんだ
わたしは君のこと
ちょっと羨ましいとか思うんだよ
みたいな感じ出して喫煙所から退散した

今日も元気にクリエイティブに課長の命令に従いますし
クリエイティブに残業しますよ、そりゃあね
毎日ヤフーのトップページ見て
思いつきで企画丸投げするなんてさすがですよね
とか、金井さんが言ってきて、笑えねえなあ

夕方に窓から眩しいくらいの西日が差し込んでくる
わりと高いビルだから、他の建物でいびつになった地平線も見えるんだけど
それ見て、
うちの業務部に出入りしてる業者にホライゾンってあるじゃん?
製本の機械納めてるところ、あれ、ホライゾンじゃなくてホリゾンらしいよw
とかラインきてたの思い出して
まだ返事書いてないしそもそもどうでもいいなあ
とか思った

今日も帰宅時間10時過ぎるし
この前冗談のつもりでバカ買いした
冷凍食品の在庫が確実に減っていく、なあ
とか思いながら車を運転していると
右も左も目の前さえも紅葉で覆われた道に差し掛かる
まだ点々とついているオフィスの光の中で
もう、あれだ
11月も終わるなあ、とか
思いましたとさ

カーステレオで甲本ヒロトが
僕の右手を知りませんか、って
歌ってんの
知らねえよ、てか、ついてるじゃん
とか思った


ある朝冬の車道にて

  芦野 夕狩

きみは風のみちを歩きながら、あまたの黄昏に出会い、錆びついた鉄骨が剥き出しになった橋のしたで綺麗に身体を折りたたんできた、そう、なんども。緩やかにカーブを続ける国道沿いの小高い丘の上で、新しくなったキンポウゲの匂いをかぎ、雲の流れる先のひかりに目を細くしながら、そう、こうやってカーブを続けることにとてつもない意味を発見したのかもしれない。

今日ではない、いつかの夢の中の予感が草のみちを走るきみの背中にはりついているよ。寄り添っているよ。けれども枯れ枝を踏み潰すことなく、そのしなやかでなくなった曲線をも愛するがごとく、きみは、羽のように吹き遊ぶだろうね。それはきみが生前描けなかった軌道なのかもしれないし、いなくなってしまうときの冷たい硬直に対する柔らかな抗いなのかもしれない。

きみは、今や、かつてそう呼ばれていた名前からの逸脱をさだめられた回転体のようにだだっ広い世界に自らを企投し、雲のみちを跳躍するだろう。そのとききみは、あまねく降り注ぐ慈雨のようには、どうか、成り果ててくれるな。その鋭かった歯で、憎悪や後悔や呪詛や妬みをいつまでも噛みしめていてくれ。

きみの、その、旅路の果てに、幸福な夕食は用意されていない
きみの往く道に神なきことを、祈る
ある朝冬の車道に、その祈りを置き去りにさせてくれ

そしてきみは、いくつもの冷たいアスファルトの道を歩き、冬を歩き続け、季節外れの雪に、冷たさに、包み込まるとき、辿り着いたオレンジに染まる民家の、庭先に植えられたアネモネの、弱い毒に、爽やかに、摘み取られるだろう、その魂をも


カンパネルラ!

  芦野 夕狩

カンパネルラかもしれない
同僚はそう呟いて冬の街に消えたきり
もう会社には二度と現れなかった
僕はカンパネルラ症候群だと思った
けどもそれはまだカンパネルラ症候でしかなかった

同棲していた彼女が
カンパネルラかもしれない
そう呟いていなくなった時
それは確かにカンパネルラ症候群になった

ロヒプノールの錠剤が青くなったことと
関連しているのかもしれない
明るさと上手くやっていけず
活字を読みとるためだけの
デスクライトに照らされた部屋には
ペットボトルや靴下や
なんのために存在したかもはやわからない
紙がちらばっている
砕いたロヒプノールの錠剤が
絨毯の隙間に滑り込んでいる
このまま滑り込み続けて
この部屋が取り返しのつかない青に
染まればいいのに

僕は人間である前に
一塊の鉄である
果たして本当に必要なのかもわからない仕事を
毎日こなすためには
そうでなくてはならない、ということだ
たまに昔読んだ活字を手に取るが
それはカンパネルラではなかった
ロックミュージックをかけても
それはカンパネルラではない

ある人は人生は累乗されうるという
僕にもその意味がわかっていた頃があった
僕がまだ物語であった頃の話だ
ロヒプノールがまだ雪のように白かった頃の話だ

雪の降る日。まだ白い雪。僕は確かにキリマンジャロの山頂付近にいた! となりで豹が凍り、カンパネルラ、と叫んだはずだ。そして子供たちがそれぞれ独特のやり方でミルクをこぼし始め、世界怪獣がそれを見て笑っている。女の子たちは風の歌をうたい、男の子たちはそれに乗ってみんな海賊になってしまった。ミルクは一杯の地球では収まり切らずに、僕の部屋になだれ込んで来る! カンパネルラ! 叫ぶと青色職人が女の子たちを一人ずつ凍らせていき、風を失った男の子たちが陸に行き着き平凡な生活を始める! カンパネルラ! 今日から収入と支出の記録をつけて、将来老いてから病気をやっちまってもなんとかなるようにしようと思います! ミルクはブクブク泡を立ててホットミルクになってしまった。これでもう誰も凍りつかない! 僕のとなりでは決して凍りつかないような健全な女が寝ている。カンパネルラ! 叫んでも凍りつかない。なんて健康なんだ! もう誰も凍らない、凍らせない、凍れない! 男の子たちは絶望する! 女の子たちも絶望する! 世界怪獣は凍っちまえよ ベイビーを歌い始め、それと同時に凍らない ゆえに ビューリフォーを奏で始める! 僕は一塊の鉄だ! カンパネルラ! 僕は凍らなかった、僕のとなりで豹が凍った、僕は海賊だった、僕はカンパネルラじゃない、僕はミルクをこぼした、女の子が凍った、僕はホットミルクの中で凍った、みんな凍った! らい病研究者になった世界怪獣がそれを見て美しいと言った、美しくないよ、と言った


スーパーソニックウーマン

  芦野 夕狩

気づいたら ふりだしに戻る
がっかりして めそめそして
あの子の背景はいつも満月が写っていて
サイコーってどんな気分なのかわからないから
生きていくうちにわたしはいつの間にか200度くらいで燃える虎になっているかしら

友達といっしょに 野原で 草原で 枯野で
もてるものすべてを持ち寄ってピクニックに行き
道すがら目に入ったおいしいワッフルを食べることができるカフェに入る
たぶんベルギー産 目をつむってもベルギー産
フランスでもイギリスでもスペインでもないスペシャルな感じに浮かれながら
ポップゆえに死す

死んだら一緒になろうね
死なない蛸になろうね
みんな大豆ペプチドを摂取しながら
そんな言葉をうたいながら
唐突にエリンギになってしまえばいいのに
あぜ道に生えてしまえばいいのに
つくしみたいに
つくしみたいなエリンギになってしまえばいいのに!!

わたし、おとこのこに生まれたかった
自分より優れたものに商業的とか大衆的とか
そういうレッテルを貼って、いつまでも魂のとなりにいられる気がする
ブスの生きる道はアフィリエイトしかないと知った6月

ウィッチャー3ばかりやっていたから
口調がゲラルトさんみたいになってしまいました。
会社で男の子に食事に誘われると
いつもなら、思わせぶりに微笑んでみたりしていたのですが
断るには余りにも魅力的な誘いだ
なんて口をついてしまって
どうしたらいいでしょうか、婚期が逃げていきます


あの滅亡、この滅亡。

  芦野 夕狩

みんな絶望しているだろうか。地球からはるか何億光年離れた宇宙船の中で、鳩時計が顔を出す。みんな絶望しているだろうか。テリーは顔に空いている全ての穴から血を流しながら、多分、歌っている。滅亡に関する歌だ。野菜を収穫しすぎて逆に貧乏になった農家の歌ではない。我々はいつも旅の始まりに立っていて、過ぎ去ったものは全てウタになる。多段式ロケットがいつだってそれを証明している。そういうふうに優しさを一つ一つ切り離していったのが僕たちだよ。火星あたりでそう微笑んで見せたのを覚えている。パセリ。答えがないってことは僕たちが考える以上に大切なことなんだよ。それがその歌の決まり文句だった。テリーは飽きもせずにその歌を繰り返し歌っていたけれど、実際のところ何が言いたいのかさっぱりわからなかった。告白しよう。テリーのことみんな馬鹿だと思っていた。そんなテリーが出血している。出血なんて言葉じゃ片付けられない。はるかさんがそのだらし無くぶら下がった手を握っている。テリーは滅亡の歌を歌っている。鳩時計が顔を出す。みんな絶望しているだろうか。はるかさんの夢は一人前のパティシエになること。そのためにはどんな努力も犠牲も惜しまなかった。人一倍卵白をかき混ぜていたし、人一倍酵母について考えていた。つまり、人一倍酵母について考えながら卵白をかき混ぜていた。多段式ロケットの4回目の切り離しのときもそうだった。その切り離されたロケットの中に彼女のフィアンセが乗っていたことを最初に知ったのが他ならぬテリーだった。テリーは農家の歌を一時中断して、ジャガイモは地面に埋めると増えるんだよ、という話をして彼女を励ました。人一倍酵母について考えながら卵白をかき混ぜていたはるかさんは、確かに、と思った。だから手を握って死んでいる。多段式ロケットがいつだってそれを証明している。そういうふうに優しさを一つ一つ切り離していったのが僕たちだよ。木星あたりでもそう微笑んで見せたのを覚えている。二人はジャガイモみたいだった。セックスを媒体とせず、ただ土の中で眠るように増えていく。というのが彼らの描く軌道となって土星まで辿り着いた。置いてきたものは全てケーキになるの。そんなふうに微笑んで見せたのを覚えている。誰も彼もがあの滅亡で心が傷んでしまった。だからはるかさんのことを悪く取らないで欲しい。人類はいつだって未来へと向かわなければならない絶望の隣で立ち竦んでいるのだから、と。鳩時計が顔を出す。みんな絶望しているのだろうか。そのような疑問をこの宇宙船で初めて抱いたのがピッコだった。ピッコははるかさんの中身から生まれてきた。土の中で眠るようにセックスを繰り返した二人の子。ピッコはいつも宇宙船の窓から景色を眺めていた。丁度天王星が見えていた頃かもしれない。ピッコはあの滅亡を知らない。だから通り過ぎていく色々なことがウタやケーキだなんてとても思えなかったのかもしれない。数知れぬ星々の間には見えない橋が架かっていて、互いに惹かれあったり、遠ざけあう。幼い彼はそんなことを発見した。そして天体を舐める焔の波も、氷のざらつきも、覆う気体の曖昧さも、その全てに優しさを含んでいて、それゆえに滅亡を繰り返す我々をどう肯定すればいいのかわからなかった。みんな絶望しているだろうか。鳩時計が顔を出す。8回目の切り離しが行われると知ったとき。それが今までとは異なることを意味しているのを知ったとき、幼い彼の瞳はとても大きく見開かれた。それは安易に死を意味していたわけではないし、驚きや悲しみや、そんな甘いケーキみたいなものでもなかった。とにかく幼い彼の瞳はとても大きく見開かれた、という事実だけがあった。


ゲーテ時代

  芦野 夕狩

君に会うことがなくなってから
いくつかのかなしい出来事と
いくつかのたのしい出来事が
あった
たまに思い出すこともある
君と僕とがゲーテとシラーのように生きていたこととか
君と僕とは足してもゲーテやシラーにもなれなかったこととか
イエナの君の隠れ家でおこなわれた
うつくしい研究のきれはし
その全てを焼き払ったことは
君の預かり知らぬところかも知れない
その炎は未だ燃えているのかも知れないし
そうでは無いのかも知れない
いずれにせよ僕たちは断片であることを望み
僕たちは断片のように未完成のままだった
閉ざされていないことが、君が言うところの
真なる完成、と信じるのならば
話は違ってくるのかもしれないね

こんな風景のことをいつも考えるんだ
僕は放浪の旅の果てにどこかの公爵の命とか名誉だかを救い
その方にささやかな領地を賜り
そこには口汚いけれど
蜜蜂の世話をこれから一生していくことにうんざりせず
むしろその蜜をたまに味わえることがこの世の全ての
喜びに勝ると思っているような
そんなささやかな人たちが暮らしていて
干し草の匂いが胸の奥をからからとさせるような
そんな牧歌的な村に
いつだか消えてしまった君がひょっこり現れて
村を見下ろせる丘にある一本の樫の木陰に座っている
もちろん後ろ姿で君のことはわかる
だってその髪の結わえ方は昔と何も変わらないし
髪の結わえ方以外で人はそう変わるものではないし
僕は君に何というだろうか
元気か、とか久しぶりだな、とか
そんな月並みな言葉を君にかけて
君もまた
そうだね、とか色々あったな、とか
そんな月並みなことを
僕に言って
それからしばらく話をして
ここにいてもいいんだぜ、と言うと
是非そうしたいね、と君が言い
それでも君はたぶんここに留まることなんて
無いだろうと思いながら
耳をすますと
農家の人たちの声も疎らになっていて
ニワトリや馬も牛も静かになっていて
その世界の一日の
終わりを告げるように
太陽がゆっくりと
沈んでいくところを


僕は彼女を抱きしめたかった

  芦野 夕狩

会社から帰る途中に
空き缶が転がっていて
道路の傍に
コロコロと転がっていくんだよね

誰かを
例えば上司を
無能だ、と心の中で罵ってみて
その空き缶の転がる道を歩いてく

剥がれていく
仕事中に書類で指を切って
そこに貼り付けた絆創膏が
ほの暖かい湯に浸って
だらしなく剥がれていく

僕が僕である悲しみ
という言葉の反対として
僕じゃないよろこび
というものがあるとしたら
主語はなんだろうね
絆創膏だろうか

鬱病になってしまった後輩からラインが来る
無理はしないでね(無理をしない程度に世の中に貢献してね
後輩は絆創膏のように剥がれていってしまったのかもしれない
君が君じゃないよろこび

空き缶の転がる道を歩く
歩く
何度も歩く
たぶん
無能だと思っていた人たちは
皆等しく無力なだけなのかもしれない
僕と同じように

剥がれていく
あさ鏡を見るたびに
耳が小さくなっている気がする
口が四角になっている気がする
僕が僕じゃない喜び(?)

鬱病になってしまった後輩にラインを送る
なんかさ、結局
世の中が全部悪い気がする
よくわかんないけど
俺頭悪いから難しいことわかんないけど
お前がお前のこと責めるのを俺が許せないっていうか
俺がフツーに働けてて
こういうこというのもすげー無責任だと思うから
お前がお前のこと責めるのを俺が許せない証拠に
会社辞めようと思うわ
まじ
止めないでくれよ

返事がない
ただの屍かもしれない(既読だけど
もしかしたら救えたはずの命を
見殺しにしたのかもしれない
遅すぎたのかもしれない

とりあえずセックスがしたくなった
愛とか恋とかそういうのじゃなく
ベッドの上で欲望の塊に成り果てて
なんかよくわからないけど
果てしなく意味のないセックスをしなければならなかった
そうすることが世界への復讐だった
意味や価値を求められて
失われていったものたちへの葬いだった

夜の街で女を買い
僕が救えたはずの命が終わったことと
それと同時に世界が終わったことと
僕たちは銃弾が飛び交う戦場のようなところで
ただ剥き出しにセックスをしなければならないことを
伝えた
女は見るからに商売女で
トクホの烏龍茶を飲んでいた
お金を渡すまでは僕の話を聞いてくれた
お金を渡したあとはスマホをいじっている
でもさ
若者の貧困は世の中が悪いと思うんだよね
俺頭悪いから難しいことわかんないけど
ある意味君のために俺会社辞めたんだわ
まじで
女は先にシャワーを浴びると言って浴室に消え
僕は部屋で彼女の体を見ないように努めていた
だってそういうものは秘匿されてなければならないから
女と入れ違いにシャワーを浴び
女の言うままにベッドに寝かされ
手コキをされた
僕は彼女を抱きしめたかった
ただ彼女は乳首は痛いといった
だから裸で抱き合うことはできず
僕はしごかれていた
正常位でいい?
そう言われて
いいよ、と言って
そのまま彼女が横になって
ローションを塗られて
挿れた
僕は彼女を抱きしめたかった
けれど彼女は足開きすぎると痛いと言った
だからそれは無理だった
彼女はスッキリとした美人だと思っていたけど
お腹が出ていた
綺麗に三段に分かれていて
わずかばかりに足を開くとそれがより強調された
僕は彼女を抱きしめたかった
彼女は
なんか萎えてない?
と言った
僕は手でしてくれる?
と頼んだ
いいよ、と言った
そのまま目を瞑っているとすぐ射精した
お互いにすぐに着替えてホテルを出た
火災が発生しているビルから脱出するみたいに


侏儒

  芦野 夕狩

おれは朽ちた木に咲いた嘘だ
みずからを生け贄にして泣き叫ぶおんなたちの
あだの心臓をたずさえて一括りの
みずの隙間から産まれてきた
血まみれの嘘だ

錆びた鉄といにしえのうたと
おれの指のさきの硬いしこりと
眠ることのない木々の慟哭とを
額面いっぱいに塗りたくった
それがおれの全てではあるまいと信じながら

それが不幸か
これが不幸のありようならば
肥溜めのわきで眠る豚どもの腐臭にもおとる
おれの指にできた血のまめほどに
とるに足らぬことどもに
いにようされし侏儒のこえよ


変身

  芦野 夕狩

河は燃え
赤く染まった月をそのみなもに滑らせ
葦と井草に囲まれて
小さく開く苦悩がある
オオカナダモは呼吸をしている
月の光彩は河をほの赤く染め
染めながら流れて

湖面に開くかなしみがあり
鈴虫の声にみなもは揺れて
その声は夜をしつらえ、ただ揺れないものは
空の月ばかり、冷たい貌をみなもに映して
潰えていく命をわらいつつ
そのたびに揺れる

帰り路
アスファルトにへばりつくガムみたいに
流れる月を見ていたのは
狼男が見た夢の続き
ある夜、彼は狼ではない夢を見る
それは狼の姿で、鈴虫の声を聞きながら

そして満月を見上げる
役割を終えた交差点の真ん中で
何かに変身してしまうことの
どうしようもない宿命を呪って

なにものでも無かったものたちの
変身をつかさどるもの
リリオーペの花壇の隣で
仮面ライダーでもなく
ウルトラマンでもない
そんなポーズをとることを
余儀なくされたものたち
湖面に揺れるかなしみの数だけ

そしてどうしようもなく
変わっていってしまうものたちわらって
月は濁流に呑まれて、今夜も
たくさんの人を変身させたまま
姿を隠してしまうのだ。かたち
それがなんであろうと
そうであるかたちを押し付けて
そうであるかたちを許して

僕はなにものでもありたくはなかった
それは自分と許しあうことが出来ずに
湖面を揺らし続けるものの傲慢かもしれない
僕はなにものかであることを恐れて
オオカナダモの呼吸を真似て
その光を見つけ出せなければ良かった

濁流に呑まれて
見えなくなった月に
焦がした心を持て余しながら
缶コーヒーの蓋を開ける
やがて昇る朝日に
その光彩を
もう一度預けるための
顔の無い朝を待つための


革命

  芦野 夕狩

葛餅がうまく食べられない
あのきな粉と黒蜜の塩梅が、ね
諦めて、茣蓙を敷いた畳の上で寝転び
つまらない漫画を読んでいる
夏休みに浮かれた子供達の声ももう聞こえなくなってしまった
蟻の行列がわたしのからだの上を通り抜けていく
わたしはからだを横たえている
それは例えば、革命、という言葉からもっともかけ離れた姿勢なのかもしれない
そんなことはどうだっていいのだけれど

そういえばこれはどういう種類の蟻なのだろうか
つまらない漫画を眺めながら考える
これは多分、普通の蟻だろうな
そう思う
普通の蟻は葛餅を目指し
わたしはからだを横たえている
いつからだろうか
もう五日は過ぎたような気がする

ああ、と思い立って
手紙を書こうか、と考える
若い頃にお世話になった大学の教授に
文を交わすのなら少しだけ距離のあいた人がいい
時候の挨拶を添えるような相手がいいに決まっている
畏まりたくて仕方がないじゃない
人間こうなってしまうと

拝啓、と頭の中で書いて
その後の言葉に詰まる
秋の初旬はどんな花が咲くのだろうか
彼岸花はまだ咲いていないだろうし
秋桜もまだ早いだろうし、何しろありきたりだ
そういえば近所に梯梧が咲いていた
梯梧なら畏まっている気がする
けどあれ、沖縄の梯梧とは違うんだろう
普通の梯梧じゃないと畏まれないなあ
そもそも梯梧は夏だよなあ
わたしが外に出ないうちに散ってしまっただろうか

季節の挨拶は後回しにして
何を書けばいいだろうか
先生に教えてもらった東ドイツのなんとかって詩人のこと書こうかな
先生、目下のところ、わたしの革命は葛餅に躓いています。
なんて、先生が可哀想になるなあ
つまらない漫画を逆さまに持って
こうすれば面白くなるんじゃないかと試している

普通の蟻がわたしの体の上を通り抜けていく
葛餅のあのきな粉と黒蜜の塩梅が、ね
そこらに落ちていたメモ用紙に
身代金、と書いてみる
こんな字だっただろうか
葛餅の隣にそれを置いて
蟻の行列を眺めている
どいつもこいつも身代金目当てか
そうつぶやいてみる


砂時計

  芦野 夕狩

ゆううつの広がりが壊れながら吸い込まれていくあなたの手をとり
携えたのが8月のあかい空に焦がれていく一粒一粒のはまべの砂が
あなたとわたくしの手の隙間からひとつぶひとつぶ零れていくのを
モンシロチョウの白い鱗粉のなかから数えあげたしろいかなしみの
浮遊のなかでするどく、

こうして窓から見える小さな海の中に波頭のしろいろが飲み込まれ
なんどくり返しても同じ青さのままで風は強く、朱にそまることも
なく、その見えない運動に目をこらしているままわたしたちはすな
のなかに埋もれていく、硬く

そして10月のまだあわいくれないのきせつに熊手のなかで終って
いくものたちのいのちを数えあげること、なまあたたかいふぶきに
抱かれるようにしあわせにこの手をたずさえたままこおってしまう
ためにきせつがうつろうそのみえないうんどうをいつまでもみるこ
ともなく、きくこともなく、だけど感じているのです

このくにでいちばんさむいふゆをください、といのるゆびさきから
こぼれおちるすなつぶのひとつひとつをかなしみとよびよろこびと
よび、とおりすぎるきせつ、かぜ、モンシロチョウのしろい浮遊を
うたいながら、そうです、うたいながら、


別れ

  芦野 夕狩

もうどうしようもないような
三角と四角がいた
季節よりも花よりも
アイスクリームを愛していた

ふいに二人は夕暮れに出会ってしまった
取り返しのつかない金色に
どうしようもなく染まりながら
互いの涙をぬぐってやることができなかった

そんなありふれた二人の話
カーテンのレースが風にそよぐ音よりも
小さな声で君に話したかった
話してあげることができなかった

三角はもうダメだった
人間が取り決めた社会的なあれこれに
もう返事をすることができなかった
分かるだろうか

四角は別れを告げた
まるで、世界で一番
さよなら、が得意なやつみたいに
クールに決めなければならなかった

もうどうしようもないような
三角と四角がいた
一緒にいればたちまち癒えてしまうような
痛みを頑なに守り続けている


比喩の練習

  芦野 夕狩

ましてや他人の子供だからさ。と、うつむけた額と額でキスをしたら、まるでニューロンが結びつき合って
強く、強く生きていけるね、と(信じてるみたいに)、二つの大きな影が、寝室へと消えていく
気を付けて その敷居は国境線だよ 声にしたくてもなりえない
夜の、夜の、夜の、夜の湖のように、ね。それなら、僕も
神様の見えない運動が僕を作ったんだと信じてもいいかい?

いや、それはむしろ宇宙の摂理だよ
と神父さんが笑う。わかりやすく言えば宇宙だって
朝、目が覚めて腸が動いていないうちに朝飯をかっくらって
10分そこらで髭を剃って歯を磨いて家を出て
KAWASAKIの250ccにまたがれば、その振動でいやでも糞をしたくなる
君を作ったのはたぶんそのKAWASAKIの250ccの振動だし
糞だっておしとやかに言えば、神様の見えない運動とも言えなくもない
神父さんは神を冒涜するのが好きだ
そして孤独だった
2005-06シーズンのフィラデルフィア76ersのアレンアイバーソンみたいに孤独だった
寸分の狂いもなく正確に客席に狙いを定められた3ポイントシュートみたいに
無意味だったし
その軌道を愛していた

あなた知らないの?
とエミリーは8頭身の人形がたくさん置かれた部屋で目を丸くしていた
ある人形はぴたりと腰に右手をのせ、もう一方の手でその金色の長い髪を払っているところだった
知らないなら教えてあげましょうか?
僕にはそのポーズが何を表しているのかわからなかった、けど
何かを表していることはわかった
神様の見えない運動
エミリーがそう耳元で囁いたとき、たぶん、世界は止まっていたと思う

家の門を開けて
玄関にたどり着くまでのあいだには
必ずフリックが駆け寄ってきて、僕の帰路を少しだけ遅らせてくれる
庭の脇におかれたフリスビーを投げると
フリックは一直線にその軌道の先を捕まえようと走り出す
僕はその後姿が好きだ
迷いもなく駆け出せる足が好きだ
遠くで、太陽が沈んでいる
まるで寸分の狂いもなく正確に客席に狙いを定められた3ポイントシュートみたいに
いつまでも得点は入らない

あまり遅くなるとパパとママが心配するからね
フリックをおとなしくさせて、家のドアを開ける
果たして僕は、彼らの子供に似ていられるだろうか


非詩の試み

  芦野 夕狩

よくされる話だけど、僕と君とは何か使命をもってこの世に生まれてきたわけではない。
世界平和も戦争も町内会の清掃活動も、僕らの運命とは何らかかわりのないことだ。
そして、言ってしまえば、僕が君を愛することも、その逆も、僕らの運命とは無関係である。

運命とはつまり自らを導く道程を信ずるかどうかによってその性質を変え、
一度空虚を味わった人間は、運命とは空虚そのものである、と知るのだ。

フランスのアランという哲学者が、
愛は感情に属するものではなく意志に属するものである
と記した書物があったはずだ。
この言説はいささか現代的ではないかもしれない。
というのも、この言葉の内部には人間のどうしようもない自己承認欲求を満たせない何かがある。
愛が感情によるものではないのだとしたら、
自身に愛をそそぐ者は意志によってその行為を貫いているのであり、
結論として、どうしようもなく、空虚な答えを導き出してしまう。
つまり、愛する者の対象は決して自分でなくともかまわないのではないか、という結論を。

コーヒーを淹れようとした手が震える
雲雀の声だけがどこまでも遠く響き渡ってゆく朝

ただ、僕らはどうしようもなく時間的に、空間的に、制限されており、
例えば地球の裏側にぴったりとお互いの隙間を補い合える相手が存在すると仮定したとしても、
その相手と出会うことはとても面倒な話だろう。
たとえ同じ町内いたとしても、そんな悲劇とも呼べぬ悲劇はざらに起こりうるのだから。

選び選んで選び抜いた相手ではなければこそ、それが我々が呼ぶ運命とは似つかない代物であるからこそ、
愛はたえざる意志によって選び取らなければならないものだということを知る。
それは多分に空虚なものであり、ときに愛されるものの心に、遅効性の毒を植え付けてしまう。

けれども、お互いなにかの間違いで、
ちょっとした空調の誤差かなにかで生まれおち、
賽子の偶然によって隣に居合わせ、それを少しだけ心地よいと感じたこと。
愛するという選択と、そうではない選択の扉が、
合わせ鏡のように延々とゆくさきを遮っている

と、ここまで書いて、これでは詩とは呼べないね、と笑っていられる朝
これが詩でないのなら、詩ってつまらないものね、と君が笑ってくれる朝


letters

  芦野 夕狩

寝室の床、木目をうえへうえへと辿っていくと
色萎えたすみれの花びらへと突き当たる
これは紗代ちゃんのおめかしなの、と
あや子が摘んできたものだ
その花びらに刻み込まれた皺の一つを辿り
幾重にも錯綜する筋に多くのまちがいを繰り返して
やがて最初の皺がすみれの一枚の花びらを横断したころ
昇ってきたのが朝陽だった

紗代ちゃん、とは春にあや子が拾ってきた石であり
紗代ちゃん、とは僕らが迎え入れようとした
新しい家族に与えられるはずの名でもあった
まだ朝が多くを語ろうとしないうちに
それを一瞥し、居間のソファーに腰掛ける
カーテンの隙間から細い光が食卓へ伸びているのを眺めながら
昨晩義母からあった電話のことを考えていた
 呼吸をするときにね
 できるだけ吸う息と吐く息を同じくらいにするの
 そうしたらもう勝手にお腹が膨らんだりしないのよ
あや子の言葉を深刻そうに繰り返す義母を宥めて
細い、ひらすらに細い糸を両腕で抱くような
夜はいつの間にか明けていたのだ

空気清浄機のにおい、とほこり、が
一度も点灯せぬ間に太陽は高くに昇り
鋭く差し込んでいた陽光がちょうど
居間と食卓の境目で戸惑っている
何かを思い出したかのように
湯沸かし器の中の水が沸騰をはじめたとき
玄関が開いた音がした
一晩見なかっただけのあや子は
拍子抜けするほど明るく
僕にただいま、と言い
紗代ちゃんも、とわらった
その明るさの意味を知ってしまうのが怖かった
そういえば爪を一か月ほど切っていないことに気が付いた

伸びきった陽光をカーテンで遮り
振りむきざまに目に入った寝台のランプ
薄暗い光に照らされたあや子の華奢なからだ
それは封筒にいれられていない便箋のようだった
暴力的なほどに剥き出しであるのに
厳しい戒めのもとに秘匿されている
宛てられたものだけに明かされるはずの秘密は
読まなければ誰に宛てられたものか分からないという矛盾に
頑なに隠されていた
夜も更けていくころ
あや子を抱いているのに
もがいているようだった
無数の糸にからだ中絡めとられて
それを振りほどくために

寝室に置かれた
もう何も泳いでいないはずの水槽に
何かが着水したような音とともに目が覚めた
あや子は居間のソファーに寝転んでいた
何か食べるかい、と聞くと
食べたら紗代ちゃんを返しにいかないとね、と言った
それは奇妙な驚きであり
僕はそれをうまく隠し果せたはずだ
近くの河原まで二人きりで歩く道中
あや子はちらちらと僕の方を覗き見ているようだった
ここね、という合図で立ち止まった先の風景は
見知った河原であったがもう緑に乏しく
それ故に僕は痛ましい気持ちを抱いたのかもしれない
水辺まで降りていくと
朝陽に煌かされた水が
無数のたくらみを蜂起させると同時に
それを悉く無に帰する運動のもとに
無限に流れていくのであった
あや子が隣で手を合わせていることに気が付き
僕も同じように手を合わせて目を瞑った
しばらくの時間が経って
急にあや子の手が僕の手に触れたのを感じ目を開いた
 ねえ
その声の響きはどこか新鮮で驚きに満ちていた
 あなたの手ってまるですみれみたいなのね
意味などなかったのかもしれないが
僕がその意味をわかりかねて
ふとあや子のわらっている顔に目をやると
ひとすじの涙が頬をつたった痕がある
すみれ、でなくともいい
す、と み、と れ、と 
その全部で君に咲いていたいと
そう思ったのだ


やがてかなしき病かな

  芦野 夕狩

生きることは苦痛ですらなく
秒針のひとつひとつの歩みを数えることで
風はほとんど意味もなく透きとおってしまうのですよ

このアスファルトに雪が積もるためには
地熱で溶けてしまう雪よりも
新たに積もりゆく雪が多くなければならない
誰かがもう名づけたのかしら
雪が積もりだすそのとき
その瞬間の雪の深さを

肺の中に一秒一秒を感じるのです
その一粒一粒を吐き出すたびに
生気を失った時間が
きっと赤紫色をした病の水に
だんだんと浸されていく

だからそのひとつひとつが
ただ無抵抗に溶けていかないで
仮に意味として降り積もることができるのなら
その最小単位の生を
紙一重の深さでいいから
あなたに残ることができるのなら

夕べ
時計の止まる音を聞いた
壊れた、とか
落とした、とかじゃないから
誰も信じてくれないかもしれないけれど
確かに聞こえた


マジックミラー号とわたし

  芦野 夕狩

男性は吃音で
掌の上で転がされた睾丸が
えぐえぐとどもっている
あけ放たれた空間と私
みらいの中で
花という花が死んでいる
美しいひとたちが
美しい装いで
白鳥の湖を踊りながら
軽やかに通り過ぎていく
粘膜が 
通り過ぎていく

マジックミラー号なので
星空がよく見えるよ
お母さん
宇宙は
ほしほしの粘膜なのよ
と言っていましたね
今ならなんとなく
その意味が分かるような気がします
男性の宇宙が
吃音でえぐえぐと
どもりはじめて
夜が明け
青汁みたいに
絞られていく

ほら
こんなにも陳列されていますよ
という具合に
私たちは愛を囁く
男性の脇の下から
ファブリーズの香りがして
その殺菌能力を疑う
輪廻転生を疑う
下半身の異文化交流を疑う
けれどマジックミラー号なので
すべては白日の下に晒されており
きつね色にこんがり焼かれた
わたしたちの身体は
宇宙を疑っている
みらいを疑っている 

エルニーニョ現象で死んだ祖母が
金色に光りながら
世界を染め果てようとしている
野菜を切っていた途中で
金色になってしまったから
切りかけのキャベツが
しなびているんだ
敗走する
わたしたちの太陽は
誰にもこびへつらわないところで輝き
束の間
ほしほしの粘膜を果てしなく薄くしていく
きれいだった人
きれいじゃなかった人
どちらでもなかった人

敗走する
わたしたちは
わたしたち史上最弱で
どこにも移ろわなかった魂のように
いま男性の陰茎から精液が漏れ出でる


プラネタリウムについて

  芦野 夕狩

プラネタリウムについて 僕が知っていることは あれは偽物の星だ ということだけで
実のところ プラネタリウムの 真ん中には 野一面の 花が咲いていることなんて
知りもしなかった 景色がそっと 息を殺すと 僕の隣では 昨日セックスしたばかりの 
カップルがいちゃついていて なぜそんなことを思ったのかと言うと 僕は昨日セックスをしなかったから
そういうことになるのだ

初老を迎えた とはいえ姿は見えないけれど とりあえずそのくらいの男性の声が プラネタリウムに響き渡る
なにを話しているのだろうか 耳を澄ます こんなところでしたくないよ 甘ったるい吐息が 漏れてくる
じゃなくて 初老を迎えた感じの男性が その声が 無言で 女の股を乱暴にまさぐる ではなくて
花を食べる バッファローの話をしている 花を食べる バッファローは もういないという

それは アメリカの夜空だった たぶん アメリカの片田舎で 花を食べる バッファロー達が
細々と暮らしている夜空だった アメリカの星空は 粘膜のこすれ合う音がする 一発の銃声がきこえる
いや気のせいだった それは隣の女の乳首が弾けた音だった アメリカの星空の ちょうど 蠍座に穴が空く
けどアメリカの星空は 蠍座なんてなくても オープンマインドだった 

(蠍座なんてなくても) カップルの男が 女にささやく それが心地よい響きになって 女は股を広げる
花を食べる キスをする それが愛というものです 初老の男性が呟く 一発の銃声が聞こえる ちがう
正確には僕の脳みそを ひとつの鉛の塊が通過していく音だ ごにゅごにゅ とアメリカの星空の下で 僕の脳みそは1ポンド軽くなる
気が付くと すべての人が 花を食べている キスをする 初老の男性の声で 粘膜がこすれ始める
もうすぐ 夜が明けますよ そんな言葉を 僕はいつまでも待ち続けている

文学極道

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