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作品 - 20171011_531_9955p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ニーゼ

  

「ニーゼ」(パターン1)

おおニーゼ
君がいれば何でも買える
美味い酒
美味い食べ物
高級腕時計に高級車
自家用ジェットにクルーザー
広大な敷地の豪邸
いくつもの別荘
欲しいものは何でも買える
美女だって選り取り見取り
愛だって買い叩ける

おおニーゼ
君がいれば何でもできる
世界中どこにでも行けるよ
その気になれば宇宙から
地球を見下ろすことも
テレビ局のスポンサーになり
愚民共を洗脳することも
ニーゼがあれば可能になる
それだけじゃないんだぜ
この命を永遠にすることも
不可能なことじゃない
今は無理でも冷凍保存で
遠い未来に復活さ
ニーゼがあれば医学も科学も
SFの向こう側へ突き抜ける
地球より長生きして
やがて外宇宙へ出発だ
この宇宙が終わる時は
別の宇宙へジャンプするのさ
たくさんのニーゼがあれば
すべての夢が現実になる

おおニーゼ
君がいれば神にもなれる
ニーゼを空へ積み上げれば
天国の扉もノックできる
ニーゼで買えないものはない
え? 何だって?
死んだ命は買い戻せない?
どうせ命の値段なんて
下がり続ける一方じゃないか
死ななければ問題ないさ
そのためのニーゼなのさ

おおニーゼ
僕はニーゼを愛している
心の底から愛しているんだ
だけどニーゼは知らんぷり
僕のことなど見向きもしない
何て悲しい片思い
今日もカップ麺をすすりながら
安い酒をチビチビ飲みながら
三畳一間のボロアパートで
ハローワークのトイレで
競馬場の馬券売り場で
僕は君を恋い焦がれる
ニーゼ、ニーゼ、僕の女神よ
決して手に入ることのない
残酷すぎる万能の女神よ


「ニーゼ」(パターン2)

西行きのチケットを買って
旧式の列車に乗った
行き先は「ニーゼ」という小さな町
地図にも時刻表にも載っていない
そこに行けば死者と会えるという

 もう一度だけ顔が見たい 
 もう一度だけ話がしたい
 あの時のことを謝りたい
 旅立った理由が聞きたい

いつまでも日が沈まない荒野を
列車は蛇のように進んでいく
乗客の姿はまばらで
誰もが口をつぐんだままだ

どれだけの時が過ぎたのか
数分のようでもあり
数年のようでもある
やがて列車は小さな駅に着く
僕の他にも数人が降りたが
たちまち四方へ消えていった

僕はニーゼの町を歩き回り
彼のことを必死で探した
けれど噂とは違って
いくら探しても見つからない
ついに僕は諦めて駅に戻り
今度は東行きのチケットを買い
再び旧式の列車に乗った

駅を離れてすぐに
広い河にかかる鉄橋を渡った
窓からニーゼの方を見ると
河の土手に人影が見えた

(彼だ)

僕は窓を開けて身を乗り出し
大声で彼の名を呼んだ
小さくなっていく彼は
黙って手を振り続けている

 ああ、そういうことか
 まだ早いのか
 まだ残っているのか
 まだ終わらないのか

僕は彼の名を呼ぶのをやめて
遠ざかっていく影を見つめた
どこからか医者や看護師の声が
エコーを伴って聞こえてくる
いつかまたニーゼの町に来るまで
僕は呼吸しなければならないのだ

文学極道

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