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作品 - 20170915_242_9908p

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砂(Dec.2011-Jan.2012)

  bananamwllow

《粗編(2011.12.3.)》

あまりに
潮風がうるさいので
夜半に目が覚めてしまった
煙草が尽きており
外に出るも、風の勢い
が億劫で即座に引き返した

道すがら隣人とすれ違い
挨拶すると、近くのアパートの
天井が抜け落ちたと云う
ここらは、屋根に砂が溜まるので
時折、天井が抜けるらしい
まるで信じる気もなかったが
隣人が割合熱心に忠告するので
部屋の天井の膨らみが、若干
気になった しかし、
砂に浸かったところで
惜しむような財産はない

海辺の家に住み
もうニ年半経つが
特段、やることなどない
ベランダから
潮の引き際へ目を移すと
ちいさな浜辺の、
錆びたトタンが剥き出しである

明日は仕事がないので、園田へ
競馬を見に行こうと思う
これ程、風が強ければ
馬場に砂埃が立つだろう
最終コーナーを曲がる際に
砂煙が舞って
一瞬、馬と馬の
見分けがつかなくなる

昔、一時的に仲良くしていた友人は
人と人の見分けがつかなかった
おそらく、観念のなかで
砂塵が舞っているのだろう
瀬戸内の砂は少し茶色く
園田のダートは、荒い
友人は、砂の区別は良く付いた
わたしはすべての他人が
違う顔を持つことを
少し、恐れる

駐車場から
高校生がワラワラと、
三人も出て来る
彼女たちの後ろ姿
を見遣る
髪が風に乱れて
茶色の砂が少し、混じった




《最終稿(2012.1.10.)》





道すがら
隣人が
近くのアパートの
天井が抜け落ちた
と云う
ここらは
屋根に砂が溜まるので
時折抜けるのだ
と云う
割合熱心に忠告するので
部屋の天井の
膨らみが気になり 

明日は
仕事がないので
園田へ馬を
見に行こう
と思う
これ程、
風が強ければ
馬場に砂埃
が立つだろう
最終コーナー
を曲がる際に
砂煙が舞って
一瞬、馬と馬の
見分け
がつかなくなる
かつて、
友人は
あなたとあなたの
見分け
がつかなかった
おそらく、
観念のなかで
砂塵が舞って
いるのだろう

園田のダートは荒い
わたしは
すべての他人が
違う顔を持つことを
すこし、恐れる

文学極道

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