葛餅がうまく食べられない
あのきな粉と黒蜜の塩梅が、ね
諦めて、茣蓙を敷いた畳の上で寝転び
つまらない漫画を読んでいる
夏休みに浮かれた子供達の声ももう聞こえなくなってしまった
蟻の行列がわたしのからだの上を通り抜けていく
わたしはからだを横たえている
それは例えば、革命、という言葉からもっともかけ離れた姿勢なのかもしれない
そんなことはどうだっていいのだけれど
そういえばこれはどういう種類の蟻なのだろうか
つまらない漫画を眺めながら考える
これは多分、普通の蟻だろうな
そう思う
普通の蟻は葛餅を目指し
わたしはからだを横たえている
いつからだろうか
もう五日は過ぎたような気がする
ああ、と思い立って
手紙を書こうか、と考える
若い頃にお世話になった大学の教授に
文を交わすのなら少しだけ距離のあいた人がいい
時候の挨拶を添えるような相手がいいに決まっている
畏まりたくて仕方がないじゃない
人間こうなってしまうと
拝啓、と頭の中で書いて
その後の言葉に詰まる
秋の初旬はどんな花が咲くのだろうか
彼岸花はまだ咲いていないだろうし
秋桜もまだ早いだろうし、何しろありきたりだ
そういえば近所に梯梧が咲いていた
梯梧なら畏まっている気がする
けどあれ、沖縄の梯梧とは違うんだろう
普通の梯梧じゃないと畏まれないなあ
そもそも梯梧は夏だよなあ
わたしが外に出ないうちに散ってしまっただろうか
季節の挨拶は後回しにして
何を書けばいいだろうか
先生に教えてもらった東ドイツのなんとかって詩人のこと書こうかな
先生、目下のところ、わたしの革命は葛餅に躓いています。
なんて、先生が可哀想になるなあ
つまらない漫画を逆さまに持って
こうすれば面白くなるんじゃないかと試している
普通の蟻がわたしの体の上を通り抜けていく
葛餅のあのきな粉と黒蜜の塩梅が、ね
そこらに落ちていたメモ用紙に
身代金、と書いてみる
こんな字だっただろうか
葛餅の隣にそれを置いて
蟻の行列を眺めている
どいつもこいつも身代金目当てか
そうつぶやいてみる
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選出作品
作品 - 20170905_062_9884p
- [優] 革命 - 芦野 夕狩 (2017-09)
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革命
芦野 夕狩