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作品 - 20170828_884_9863p

  • [優]  変身 - 芦野 夕狩  (2017-08)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


変身

  芦野 夕狩

河は燃え
赤く染まった月をそのみなもに滑らせ
葦と井草に囲まれて
小さく開く苦悩がある
オオカナダモは呼吸をしている
月の光彩は河をほの赤く染め
染めながら流れて

湖面に開くかなしみがあり
鈴虫の声にみなもは揺れて
その声は夜をしつらえ、ただ揺れないものは
空の月ばかり、冷たい貌をみなもに映して
潰えていく命をわらいつつ
そのたびに揺れる

帰り路
アスファルトにへばりつくガムみたいに
流れる月を見ていたのは
狼男が見た夢の続き
ある夜、彼は狼ではない夢を見る
それは狼の姿で、鈴虫の声を聞きながら

そして満月を見上げる
役割を終えた交差点の真ん中で
何かに変身してしまうことの
どうしようもない宿命を呪って

なにものでも無かったものたちの
変身をつかさどるもの
リリオーペの花壇の隣で
仮面ライダーでもなく
ウルトラマンでもない
そんなポーズをとることを
余儀なくされたものたち
湖面に揺れるかなしみの数だけ

そしてどうしようもなく
変わっていってしまうものたちわらって
月は濁流に呑まれて、今夜も
たくさんの人を変身させたまま
姿を隠してしまうのだ。かたち
それがなんであろうと
そうであるかたちを押し付けて
そうであるかたちを許して

僕はなにものでもありたくはなかった
それは自分と許しあうことが出来ずに
湖面を揺らし続けるものの傲慢かもしれない
僕はなにものかであることを恐れて
オオカナダモの呼吸を真似て
その光を見つけ出せなければ良かった

濁流に呑まれて
見えなくなった月に
焦がした心を持て余しながら
缶コーヒーの蓋を開ける
やがて昇る朝日に
その光彩を
もう一度預けるための
顔の無い朝を待つための

文学極道

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