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作品 - 20170826_855_9861p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


アラーム

  ゼッケン

魔法のランプをこすると煙の魔神が出てきて言った
無能は怠惰の言い訳にはならない
ペルシャの絨毯は
空を飛ばなくても高価だ
夏の夜は精液の匂いがする
タバコに火をつける
やめられずにいるが、肺癌になるのはこわいと思った
絨毯の外に火のついたままのタバコを投げ捨てて
おれは高度をさらに上げる 雲を抜けると正面に月があった
満月にはすこし足りなかったことをあとで思い出す
夜の雲を上から見おろす おれはきみをさらいに行くところだ
手紙をくれたはずだ パパに会いたいと書いていただろう?
砂漠の製油所で働くインド人の出稼ぎたちに日本のタバコを一本ずつ配る
インド洋を越えてきみをさらいに行く
おれは隣に寝ていた女をベッドから蹴り落とす
行くところができた、そう言っておれは部屋を出る
きみがくれた手紙はどこかに忘れてきてしまったようだ
手元にはないが、警察に通報はしないで欲しい
近所の幼稚園で運動会をやっていた、おれは
見物する。適当な子どもを見つけておれは一生懸命に応援した
応援しているときみが本当に走っている気がした
おれは一等になったきみをゴールに出迎え、両手で包み込むように抱きかかえる
見知らぬ母親が悲鳴を上げながらおれの腕から子供を奪い返そうとする
おれは母親の頬を平手で叩いた
すぐに男たちの拳がおれを打ちのめす
いつもそうなのだ、おれは煙の魔神のように本当にはこの世に存在しないのだった
会社をクビになるので警察には通報しないで欲しい
おれは土下座したが警官はすぐに到着しておれをパトカーに乗せた
おれを後部座席に押し込み、運転席に座って振り返った警官の顔は煙の魔神だった
努力は無能の言い訳だ

キーを差し込みエンジンをかけ、赤色灯を回す
おれはきみの住んでいるところを知らないので
パトカーがおれをきみのところへ届けてくれる

文学極道

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