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作品 - 20170729_615_9795p

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温泉なまタマゴ

  アラメルモ


ひとつの料理を覚えるとそればかり作り続ける母親がいる。これは飽きるよね。そうと知りながらも20世紀の母親たちは天国へ逝った。
もともと日替わり定食の好きな人は同じ食事を好まない。毎日が違う材料で味も違う。そのほうが身体にもいいのだ。
21世紀に入ると俯いてばかりで動けない人たちが大勢いた。
動かないのか、動けないのか、よくわからない。だからお腹も空かないと言う。季節は蒸し風呂のような毎日。口にするのはほとんど飲み物ばかり。それも乳酸菌入りの甘いやつ。何か固形物を咀嚼しないとよけいに動けなくなるよ。栄養失調が心配になってくる。21世紀の食べ物を差し出したら、少し噛んではすぐに吐き出した。
なんと傲慢なやつだろう(昼夜を問わず一度歌舞伎町界隈を散策してみたかったのだが、)
彼女、昨日食べたからもう飽きたと言うのだ。この夏は特に蒸し暑いよ。
それならば、と滅多に食べたことのない喉越しのいいタマゴを出してみた。冷たい温泉。白身の固まらない半熟タマゴ。
初日は旨いと言って素直に食べたよ。これで栄養不足も少しは解消できると僕は安堵した。次の日も無表情な面持ちでするすると口に運んだ。旨いとは言わなかった。次の次の日からはすぐに口にはしなくなった。
そうして六日目の夕方、
21世紀の動けない人はとうとう温泉タマゴに飽きてしまう。
あと何日食べないで生きていられるのだろう。目下をうろちょろする蟻さんに聞いてみたいな。死ぬよ、じゃなくて死ねよ、だったら部屋数を譲る。ふたつに割れば溶け出してきた黄色の海。
。生タマゴは古くなれば危ういし、いまは半熟タマゴで相性もいい世の中だから、未来には茹でタマゴだらけの社会になってしまうかも、、なんて、考えているとまたお腹が空いてきた。
不思議だね。蒸し風呂の部屋の中でも汗をかかない人たちが居る。
けれど熱心に蟻さんは動いてる。女王を食べさすために。酸化した身体の持ち主だ。あたまを冷やせよ。
アルバムに写る。季節のない食べ物。番号を探しだす。
動けなくても動かなくても、人は生きていけるんだ。まる。

文学極道

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