#目次

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アラメルモ

選出作品 (投稿日時順 / 全14作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


sentence

  アラメルモ


確かめて
、嫌だな
嫌だ
いつも同じ服
、奇怪な叫び、刹那に、
まったく嫌だな
クゥン、クウォん、改訂版
交差点で狐の行列をひとしきり待ってみる。少女。
ランダムな点滅しらけた
泡立ちもきりえとほどこす文字列に
やわ肌にみる蝶の刺青、虫めがね、んな殺生な
何かみえるか?
何もみえないしきこえない、いや、きりぎりす
出合うぞ、ささ、呻き出る音がする
このまま行くか、廻り道したらきっと出合う
それでも逃げられない、逃げたら見つかる、ヤバいよ
、もう一度よくみて、印象は、
眼も足もあたまも、長い顔が嫌なら咳をする声まですべて嫌だな
どうにかして始末してやりたい
閉じ込めてやりたい、、みつかる、隠れろ、
短区画、で太い線
、こっちで消せばいい、
灯りを、を、を、暗闇、に、、ふざけないで、
、、スケベ、こしを折る、鈴、
…………………………………やり直し


月の光

  アラメルモ

ゆらぎ

、腕をあげてごらん

ひかりの中で誰かがささやいた
まもなく意識は泡になり
眼を凝らせば
僕のからだはオレンジのしぶきを浴びて
まっ逆さまに伸びていく
塵とは思えない物質が脳内で形成され
無意識に
レンズの板をつき抜けて
−降りそそぐ
沈黙に彼方を目指していたころ

Y−氷が燃えつき
月の裏側で交差する−ホライズン
この星は湖と消滅し
物語ではじまる

はじめからやり直すんだ

、はじけ


薄く捻られた帯に巻かれ
口を開いたまま明かりに包まれた記憶
ひとり暗い夜をさ迷うのは
波の音も聴こえるからだろう
引き合いながら
いつか離れていく青い影
あれは生と死をみつめる
重力に歪んだ鏡だった
眼を閉じ
道化は愉悦の仮面に舞踏する
快楽の炎につつまれ、憎しみの怒りに溺れ、
、さわり
あなたの舞台を周り続ける
ふと、誰かの顔が表れて、また隠れ
予期されたように
その日僕は地上から消えた。


手話

  アラメルモ


display

「 on ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
………」…answer」
………………………ワタシハアラメルモデス」
「アナタハダレデスカ?」

不具合にもなれてきたようだ。
ダブルクリックのほんのわずかな遅れがここでは光の速度にまで到達してしまう。
つまり約8秒間は待たなければならないわけだ。

熱海に近い病院の窓から反射鏡の角度を少しずつ上に修正。
読み取るのは内蔵型のマダガスカル2号だ。
おまえもう少しはやく自走してくれないかな。
このようなことを考えだしてから1年と半月も経ってしまった。
改良型アケミNは指先の動きが速すぎて人間の眼には追えなかった。
いくら優れたアンドロイドとは言っても普段から何役もこなしていれば微妙な狂いは生じてしまう。
紫外線の分量計に目をやりながら彼女のことを考えていた。
両腕をもぎ取られ、地下室の格納庫に座り続けていた頃の切ない眼差し。
仕事を終えると僕はアケミに会いに行く。
襟首にあるコントロールパネルの蓋を開ければ二人で未来の会話ができたのだ。
「お腹が空いた」だとか、「ちょっとトイレに行ってくる」だとか……
感覚も無いくせに、いや、感覚は確かにあったのだろう。
しなやかな人工毛髪を撫でてやると、瞳の奥の黒い小さな蛍光レンズの粒から、薄く虹色のプリズムが溢れ出してきた。
あの輝き、あの瞼を霞めた反射は、僕が感じた幻覚だったのだろうか。
地下室の入り口を通り抜けるといつもあのときの感覚がよみがえってしまう。

紫外線の分量レベルがようやく基準値を下がりはじめた。
「………off
」このような不具合は永久に無くならないのだろう。
第5区画分離センターのカウンターバーにはステロイド化した獣のような男たちが群がっている。
腕を切り離された彼女たちの醜い指先。オーガニックに組み込まれた∈BSR。自在に感応する性器。内蔵から放たれる受容体のフレグランス。
成層圏から見下ろしても海を渡る鳥の姿は見えない。アケミの死は土に餓えた男どもの糧になる。
遥か洋上に浮かぶ二つの太陽。水素濃度の上昇に肺魚どもが宴をはじめる。
X−2Dayは近い。魚たちが潮の流れに戯れた記憶。この駿河湾もやがて太平洋に組み込まれていくのだ。

マダガスカルの光線波が血液からモニターの信号に反応を始めた。
プラグを外れるときの感触がない。完璧に写しだされたクリスタルの文字化。
僕の思考回路の痕跡もデータベースから消え去る日。
我々は誰に伝達を告げればよいのだろう。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」ワタシハアケミデス
光の帯を交差する指
回路の不具合からまた呼び戻されてしまった。


奏淋鳥

  アラメルモ


県境から山手に逸れると錦川の下流につながる
整備された広い交差点は海岸を見渡せる国道へも近い
海を眺めながら車を走らせていると街はすぐにみえてくる
帰りの渋滞を避けようと、たまに山手に逸れるのだが
この古い二車線に歪む黄ばんだ道路も
いまでは買い物客の多さですんなりと抜けることはない
ハンドルを切ることもなく、通りすぎていく。

この道を左手に見やれば鳥が丘団地がある
入り口はすでに暗渠に覆われた路肩
その昔わたしが杭を打ち、重い測量の機械を背負っては何度も山道を通った
汗と黄土にまみれた場所だ
雑木林に囲まれた低い山
この辺り一面は目立つ商店もなく、屋根瓦の民家がひっそりと点在していただけだった
当時、二十歳を過ぎたわたしは一年以上何もしないで家に引きこもっていた
ファッション雑誌の切り抜きを、ガラス板の裏側に貼り付けては眺めて楽しむ
不登校の子供が暗いタンスの中で何時間も空想に耽るように
そんな子供を心配しない親はいないだろう
まだ少し雪の残る季節だった
重機の運転をしていた叔父に測量のアルバイトを勧められた
勧められたとは言っても、ほとんど強制的に仕事を持ちかけられたのだ。

小さな森が切り開らかれ更地になるのには新鮮な驚きもあった
大木が倒され、唸りをあげるブルドーザーに削られ、みるみるうちに斜面には線が引かれる
その姿を見ていると、もう後には戻れない心境になってしまう
「ここの白菜を全部抜き取ってくれ」
背の低い厳つい顔をした年長の現場監督からそう言われた
吐く息の冷たい中、最初の仕事は人糞を撒いた肥がそのまま残る、野菜を土から抜き取る作業だった
真っ白な軍手が、まるで罪人のように泥と肥やしに染まる
見かねた運転手のおっちゃんが降りて来て手伝ってくれた
一日の仕事が引けた、涙を抑えていた
わたしはいまでもはっきりと記憶している。

スケールを両手に剥き出しの山を駆けめぐる
硬い岩盤を避けて杭を打ち、丁張りで堀方を示していく
安全靴の長い紐を結ぶ、辛い仕事だった
それでも二本と線の引かれた淡色のヘルメットを被る、建設会社の若い監督たちはやさしくしてくれた
段々とブロックが積まれ、団地の姿になるまで二年くらい頑張った
若くて体力もあった、何よりも意地があった
仕事が一段落着いたとき、雇われていた下請けの会社から正社員になれと誘われたが、断った
土太い腕、日焼けした顔、飯粒を啄む、手荒い男たち
キツい、辛いだけの仕事を抱え込む意味がわからない
腰を痛め、たぶん身体も気力も彼らには就いていけない、そう思った
、平屋の大きなスーパーが麓にみえてくる
車を停めた、駐車場の、二階建てのプレハブが軋む音。

団地という枠図が整うと後は建て売り業者の仕事だ
そんなときに会社を定年していた親父が、雑役係で臨時の職を紹介してもらう
家から団地まで通うのには距離もある、親父は50ccのカブで通っていた
仕事に関してよく文句も言っていたが、そこを辞めてからは口癖のように懐かしんでもいた
一度二人でこの団地を眺めにきたことがある、けれど、
途中の渋滞で口喧嘩をしてしまった
無口に顔を強張らせたまま、新しい家々が建ち並ぶ高台を目指してぐるりと一周する
頂上にある円形の白い大きな貯水槽、小さく見下ろす鳶たち
入口の付近にあった家の壁
その薄く褐色に塗られた縁取の線だけが眼に付いた
、路傍と、、意識は薄れ。

話しが長くなってしまったようだ
わたしは誰に話しかけているのか
一人公園のベンチに腰かけていると記憶に溺れてしまうのだろう
もちろん、この入り口付近に設けられた敷居の基礎を作ったのはわたしだが、誰もそんな事に興味はないのだ
梅や銀杏の木に添うような、柘植や皐月を囲む手入れの行き届いた花壇
色鮮やかに敷き詰められた石畳や、背凭れが鋼で装飾された木製のベンチも
明日は子供たちや小犬に蹴散らされる、浅瀬の砂場に日が暮れるまで
労した人間の面影もない、何処にも在りはしないのだ
両手をあたまの後ろに組みながら、深く背を沈めて物思いに耽る
あしをまえになげだし、からだは空にむかって、たおれた
手前の道路を小走りに去って行ったのはランニング姿を乱した中年の男だった
遠く、まだ手付かずの森を眺めていた
それから一組の若い母子連れがやって来たが、いつのまにかその姿は見えなくなっていた。

景色の中で小説が読みたくなるときがある
誰も居ない場所を探していたりすると、なかなか見つからないことに気づく
周りの状況が気になればなるほど寂しさもまた実感するのだが、
そのようなときに若い男女連れが現れようなものなら、たちまち逃げ出したくなってしまう
今日はたまたま誰にも逢わずに済みそうな気配だ
ただ脇にある公衆便所の扉の鍵が閉まったまま、人が出てこないのは妙だった
見たこともない木々の葉が生い茂り、ひっそりと佇み、まるで季節を見過したような公衆便所
使われているのだろうか、と近づいてみる
中からがさがさと、紙の擦れる音がした
団地の入り口は岩盤だらけで、重い掛矢を何度も振り回した
測量の機械が読めるようになると気分は一人前の現場監督だ
監督たちが寝泊まりする、麓の事務所には暇潰しによく誘われたが
同じ下請けの人夫たちの目線を避けるのは辛かった

、煙草を吹かし、物語を数ページめくる
あれからもう一時間くらい経つのだ
車の冷房が効きすぎて腹でも下しているのだろうか
それともまわりを意識して出られないのか
わたしは立ち上がり、できるだけ足音を立てないように、もう一度ゆっくり便所の方へ近づいてみる
扉の入口は赤に黒文字の鍵がかかり、まだしっかり閉じられているようだ
耳をそっと近づけてみた
しばらくすると、またがさがさと擦れる音が微かに聞こえてくる
風か、外から小窓に吹き込んでくる風の悪戯に違いない
誰も居ない狭い隙間を通り抜けて、ここに居るのです、と鳴き声を囁いているのだ
淋しい音、窓は固く閉じられていた
壊れているのだろうか、しかしあの耳元に残る小さな擦れは気のせいだろうか
緊張に身構えれば、手は硬直してしまう
決心して扉を叩いてみた、最初は軽く二度、間を置いて二度、大きく拳で叩いてみた
そして扉の取手をぐいぐいと力強く廻しながら
「誰か、誰か居るのですか?」
返事はなかった
沈黙に、あのがさがさと擦れるような音が止んだ
とたんに戦慄がはしる、首筋から全身が強張った、誰もそこには居ない
、暖かな汗の滴に枝の葉が揺れた
団地のプレハブに備え付けられた粗末な洗面器の板張り
干からびた梅干しの種がひとつ転がっていた。

陽差しが波を運ぶ
点在する剥がれた道路のつぶやき
葉が黄緑色に染まる頃
梅の木や銀杏にやってくるのは小さな小鳥たち
野鳥は朝を告げるばかりでメジロの鳴き声も忘れている
カナリアとは漢字で金糸鳥と書くが、その由来はアフリカ大陸の北西、大西洋に浮かぶカナリア諸島である
見たことも、その鳴き声も聴いたことのない鳥だ
少し喉が渇いてきた
道路も通勤帰りの車で満ちてきた
たおしていたからだをゆっくりもちあげる
いくら青空を見上げても、雲の中までは見えてこない、森
私は捲れた文庫本を後部座席に放り投げ
、冷めた車のエンジンを始動させた。










奏淋鳥…………カナリア(金糸鳥)


セカンドポジション(既視感に箍められ)

  アラメルモ


美しい駅を探していた
それは木造の西洋風建築ではなく誰もいない改札口
錆びた線路の両端
何処を見渡しても空いっぱいに野原が広がる
足音だけを残した無人駅
いま僕は狭い待合所の片隅に腰を据える
頑丈な木材造りの腰掛け
窓際の薄汚れた白壁には秋祭りのポスターがちぎれ
神輿を担ぐ人々の姿は宙を舞う
 「メモリーズ」
ありあまる空は透きとおり
電線にぶら下がった蜘蛛の糸
人々からけものたちが消える黄昏

いまでは人々も携帯を持ちながら旅をする
待合室には時刻表の貼り紙もあった
列車は必ずやって来るだろう
構内を出て駅前の広場を眺めてみた
直線に向き合う商店街のシャッターは閉ざされたまま
街をうろつく人もいない
冷たい日差しに呼び戻され
気になって横に置かれた看板を見やれば
古い指名手配者の顔が貼り紙にくっついていた
通りを見直せば建物の陰から人の気配がして
不精な風の音がひそひそ話しに聞こえてくる
ひとりあたまの中で時間だけが過ぎてゆく
(もうひとつ手前で降りればよかったのに
 一歩だけ引いて、群れながら、 遊ぶ )
振り返っても列車は来なかった

わらべ箱は轢かれぬままからが砕け散る
気がつけば山の頂きが蒼く霞み
薄赤い灰色の雲におちてゆく
けものたちは冬の朝陽を浴びてねむり
誰かが水やりをする路辺のすみれ
夕立ちのあと野原に霧が佇む
踏みつぶしたシロツメグサが轍を
              辿り着く場所は幼い頃の面影
いつまでもこうして居たかった
「ゾウがいた夏の日」に
罪は小さな傷口から広がる
ふたつめの席がすれ違う回送の先
駅は線路を背負い待っている
あの日僕は予想ばかりして逃げていた
(何処へ向かうの)
それは遠近を逆に狭め続けては
宛てもないひとりの旅が終わり
やがて美しい鳥の鳴き声が聞こえる。


緑衣のレースに被われた切り箱

  アラメルモ


君、きみね、収集した言葉なんて本棚に飾って置くものじゃないんだよ。

あれは食べた後からトイレに座り込んでは流される、つまり消化するものじゃないのか?

次の日の朝も快晴だった。いや、もう少しで昼時を迎える時刻だろう。
理由もなくだらだらと夜更かしが続いていた。
眠らないのではなく、眠れないのだ。
きまって食事の後には居眠りをしてしまう獣のような癖。
充満する一酸化炭素に雨上がりの湿気。この重苦しさは誰かが祈祷する呪いの黒煙に違いない。
昨日の夜は心臓に違和感を感じてまた神に誓ってしまった。
目覚めればきっと喫煙を止めるでしょう。
「山積みにされた粉塵」を、と
箱書きにはそう記してある。

人混みの中を行く快感は何かべつのモノを身に付けているからだ。
虚栄心に満たされているときほど私の周囲も明るい。
賑わうデパートの階段を、パリッとした詰め襟の学生服で歩いている。
白いひかりに包まれた世界の、挿し挟む闇を支配する旅人である。
洋服売り場の混雑を比較すれば、古本市の催し場はまるで戦場の跡だった。
さっそく物見遊山と上下左右に眼が翻る。
古い函に収められた書物の前で立ち止まるが、漢字が読めない。外国語で書かれたモノも多かった。
ルイ,アラゴン、19世紀末、巴里、ランボウetc.
どうやらここが詩集や思想史のようだ。
このような書物には何故か魅力を感じてしまう。
何冊か手当たり次第に掴み出した。
持ちきれないのでどうしたものかと迷っていたら、傍に果物入れを横に切ってある箱が置いてあった。
本を斜めに積み重ね、そのままレジに持って行こうと起き上がれば、一人の紳士が私に声をかけてきた。
(おやおや、これはまたお高い書物をお買い求めなさる。)
値札をまったく気に留めてなかったことに気がついた。
改めて見れば一桁数が多いではないか。
一瞬あたまから汗が引いたが、私はその箱を紳士に授けて逃げ出してしまった。
北向きの風は強く、翌朝も快晴だった。
何かに追われるものも無いと悟る。いや、悟ってもいない。
忘れ去るだけで、何も残ってはいないだけだろう。
そう、考えれば考えるほど手元に置いておきたくなる遺物を
、持て余すのはオレンジ色の網目。
神に誓う度にまた同じ嘘を吐く。
珈琲が喉元を過ぎる頃には煙草に火をつけていた。


公園「トランプ少年と量子論的な現実」

  アラメルモ


やがて波が砂を浚う
鬱蒼と草が生い茂る辺り
廃材を蹴散らせば土砂が降り積もるだろう
唾を吐いては石ころを投げてみた
願いもしないのに
そうして街は雲に包まれる
ベンチに腰をかけ久しぶりに外で煙草を吸ってみる
僕らはただ風景の小さな泡に溶け込んでいたのか
少年は泥の穴を少し掘り続けては場所を変えていた
一体何を探しているのか、誰も少年を知らない
煌びやかな金髪で、少年は髪を染めていた
街のあちらこちらに凹みの跡が残りともに移動する
怒った住民のひとりが少年を問い詰めた
「空き地に記憶を埋めたよ、ここの何処かに、」
アイス一ケ分/真面目な話しだよ
蠢く細胞は崩れる巨大な壁を築いてはまた食い潰し
石像を這う蟻が
瞼を閉じると大きな黒にみえた。

追い出してしまえ
いや、気がふれたのだろう
誰も本気で少年を止めさせようとはしなかった
掘っては住民の誰かが埋め戻し
少し掘っては粘土で固める守人たち
少年は頂きに黄金の杭を打つ、その繰り返しがずっと続けられ
海沿いの街には活気が戻っていった/至って簡単に思えた
夕焼けに沈む薔薇色の壁を
裏側で気づかなければ北極星も位置を変えて見えてはこない
いつか年老いた少年は泡の正体を知らずに死んだ
垂直に輝く廃材を泥の中に埋めた
やがて地下と天上はつながれ
波に飲み込まれた砂場
見下ろせば街は人々の記憶からも消えた軌跡
きみが腰をかけた、もう半世紀も前のことだった
いまでは海の底に眠る断層のプラント
いい加減な話しだけど「眼を閉じてごらん、いつでも甦るんだ」
0と1のGap=奇数の雨
空き地を減らせば記憶も増え
穴からわき起こる音だけが静かに響いていた。


アイリス(虹は陽に架かる)

  アラメルモ


庭の白菊に水をやりましょう
永遠をすれ違う人々のために
欲望の根を絶やさないように
堕天使の矢を掴み、悪魔が背中で囁いても
霧は沈み、ぼやかされずにはいられない
アイリス
人は虹に出会い
天気雨を予想している
池を照らす丸木橋が耐えている
支柱を支えた満月の夜
きみの影は花弁の芯を写しだす
それは裸体をむしり取る
雲を掴む夢
陽に触れて、虚しさが消え去ることはない

なんときみじかな春よ
アイリス
まあるく輝いた、玉葱の薄い皮
きみのしなやかな腕が微笑に暮れた日を
僕はじっとみていた
陽炎に浮かぶ虫たちの淡い季節
ヒマラヤから零れくる水の冷たさ
日めくりを追うように
寡黙な外濠の縁からそっときみの肩に触れた
その麗しき唇か黒い羽根筋
黄昏に萌ゆる袖紫の撓り
水の底、ただじっと眺めていた
掴むことのない、雨上がりの薄い虹
いつかきみはまぼろしと消え
夢は空へ、夢のままに残るだろう


温泉なまタマゴ

  アラメルモ


ひとつの料理を覚えるとそればかり作り続ける母親がいる。これは飽きるよね。そうと知りながらも20世紀の母親たちは天国へ逝った。
もともと日替わり定食の好きな人は同じ食事を好まない。毎日が違う材料で味も違う。そのほうが身体にもいいのだ。
21世紀に入ると俯いてばかりで動けない人たちが大勢いた。
動かないのか、動けないのか、よくわからない。だからお腹も空かないと言う。季節は蒸し風呂のような毎日。口にするのはほとんど飲み物ばかり。それも乳酸菌入りの甘いやつ。何か固形物を咀嚼しないとよけいに動けなくなるよ。栄養失調が心配になってくる。21世紀の食べ物を差し出したら、少し噛んではすぐに吐き出した。
なんと傲慢なやつだろう(昼夜を問わず一度歌舞伎町界隈を散策してみたかったのだが、)
彼女、昨日食べたからもう飽きたと言うのだ。この夏は特に蒸し暑いよ。
それならば、と滅多に食べたことのない喉越しのいいタマゴを出してみた。冷たい温泉。白身の固まらない半熟タマゴ。
初日は旨いと言って素直に食べたよ。これで栄養不足も少しは解消できると僕は安堵した。次の日も無表情な面持ちでするすると口に運んだ。旨いとは言わなかった。次の次の日からはすぐに口にはしなくなった。
そうして六日目の夕方、
21世紀の動けない人はとうとう温泉タマゴに飽きてしまう。
あと何日食べないで生きていられるのだろう。目下をうろちょろする蟻さんに聞いてみたいな。死ぬよ、じゃなくて死ねよ、だったら部屋数を譲る。ふたつに割れば溶け出してきた黄色の海。
。生タマゴは古くなれば危ういし、いまは半熟タマゴで相性もいい世の中だから、未来には茹でタマゴだらけの社会になってしまうかも、、なんて、考えているとまたお腹が空いてきた。
不思議だね。蒸し風呂の部屋の中でも汗をかかない人たちが居る。
けれど熱心に蟻さんは動いてる。女王を食べさすために。酸化した身体の持ち主だ。あたまを冷やせよ。
アルバムに写る。季節のない食べ物。番号を探しだす。
動けなくても動かなくても、人は生きていけるんだ。まる。


ジライグモ

  アラメルモ


凧をあげる/鳶がまわる
反発に向き合いながら胸と背中
大空の夢をみなくなって久しい

(おや、また出てきたな、、)
家の中を片付けているといつもおまえはどこからかやってくる
どこに隠れていたのか、じっとして動かない
慌ただしく呼び出されたのに違いない(みつめている)
、(そう、きたのか)、容赦なく叩きつけてやろう
おまえにはわかっているはずだ
こうなることが、運命だと、

風呂から上がり、ドライヤーで髪の毛を乾かしていると不意に何者かの気配がする
今夜あたり白い影をみることになるのかもしれない
南西/東から北へ
旋風がやって来て、括りつける強い紐がない
布地の切れ端や、カラフルな細糸、いくらでも箱の中には収まっているのに

大型の車が通る度に家の梁が軋む
正月には誰かが空き地で凧をあげる
夜になれば糸を張らない蜘蛛が家の壁を這う
明け方、括りつけた糸が切れて風にのるだろう
それを鳶がじっとみていた
予報通りに雨は降り続くが、地面は揺れているのか、
ぺしゃんこに潰れた躰
おまえが、そっと動きだした。


house

  アラメルモ


○●

おお大きな翼が遮り
遠く、宇宙の果て白く輝いた申
うしの乳搾り、固まる
赤ちゃんの(屁)実に定かではなく
お風呂
泡のドームから弾ける
わたしが生まれた2008
ティラノサウルスのあくび
みずこなごなとちりぬるをまじわり
灰と汚れた
夏が近づくとよく喋りだす彼ら
質量とエネルギーの導火線
分解
人間なのか、わたしは
尋ねればおまえは人間ではない、と冷蔵庫は言う
わたしは誰なのか
尋ねれば、昔人間だったろうと壁が応えるのだ
片脚でエサをみつめる振り子サギ
ぬるま湯から
不意に小さな虫が出てきたので殺す
手を合わせたよ
お盆休みだったから


●○


偶像(眠りにつくための覚書)

  アラメルモ


皿の中には鰹節をまぶしただけの飯粒が塊になってそのまま放置されてある。どうやら好物の缶詰めがまた切れている様子だった。急いで部屋中を探し廻るのだが、冷静に考えてみると猫はもうとっくに死んでこの世には存在しないのだ。そんな夢を何度となくみてしまう。浅い眠り、そこに祈りはなかった。同じように、通りに面した開き戸を心配して中の扉を警戒している自分が居た。鍵がうまく掛からないのだ。仕切られた部屋はいくつもあり風を受けて窓のカーテンはいつも翻っていた。姿を見られているのだろうか。隣り合わせに向かい合う空間の外にはいつも誰かの姿を半分だけ見かけた。そうして部屋の襖や扉の入り口を確認して廻るわたしが居る。誰の顔もはっきりと思い出せない、だが、何やら常に怯えている様子なのだ。カーテン越しの窓に白い女の姿がぼんやりと映っている。セロファンの囁きに聲を傾げている女には見覚えもなかった。これが夢ならば意識から切り離されて当然だろう。周囲は既に空き地に囲まれていた。もう猫に餌を与えることはない、そう気づけば、外で野球をしようと兄が棒きれを持って待っている。ゴムボールを兄の腰の高さに投げ入れたらボールは大きく逸れて弾んだ。兄の姿はもう見えなくなっていた。しょっちゅう口喧嘩をしていた母も最近は見かけなくなってきて、そこにも祈りはなかった。
過去に遡れば、遠く、人々よ、運命を切り開き、切り裂いてしまった人々よ。昨年は何かと忙しく過ごした一年だった。もう何年も前からよく眠れないので昼間歩くようにしている。それでも眠れないのは考え過ぎてしまうからなのか。衰えていくのは細胞だけではなかった。還る土もなければ届く水の音もない。先行き不安だらけであることには違いない。そうこう考えているうちに日が暮れて、ここが第三惑星であることにも気がついていない自分が居る。そうだ、わたしは暗い宇宙を一廻りして故郷に帰ってきたのだ。なのに、この気圧の重さは一体どうしたことだろう。空気の壁に押しつけられて、世界は硬く透明に凍りついたままのアクリル板。それがまるで上下に剥がれたようにずれている。ぶら下がる照明の肌を二つに切り裂いた。息を止め鏡の中をじっと覗き込む。実は誰の姿も見てはいないのだ。猫に餌をやらなければならない。冷たくなった指先でまた湯割りを注ぎ込む。眩い光は軽くその影は重い。通りの中央で、わたしはずっと待っている。いつになったら眺めることができるのだろう。白い大理石の銅像が横を向き立っていた。背中の下で音が動きだした。明日を意識すればどうしても眠らなければならない。


「猫」

  アラメルモ


小さな瓶の蓋を開ければ読める
レモンの香り
ラベンダーかミントで後始末する(するする)
どこにもトイレがないので大きな息を吐く
するするが、たまに気にはなる
山盛りになった餌と糞を見て
人形が膝を抱えて笑う/午前零時
階段の音に聞き耳を立てて辺りを見回している、母親
これは時間の擦れ、という腹違い
そこにネズミが現れたので箒を持って追いかけた、その
少し前、姉が始末書の匂いを引き連れて倶楽部活動から帰宅した
横向きで円くなる妹のあまがみ、根もとから噛み、誇示を示す髭から
藍の眼が向かう先、いつものように
うたた寝で父が手枕に落ち着けば
土曜日の夜を兄がまた犬と散歩に出かけた
義理を巻く、などと頼もしい時間は確実に帯を縮めてやってくる
滑らかな感触の復讐の色合い
予習を始める人々が血気に目覚めるときの準備だ
(わたし)居場所がないのでそろそろと二階へ上がる
暗くなれば人工呼吸器をつけた猫
ずるずると糸がほつれて
微かな息を吸う
絨毯の滲み襤褸の切れ端
片隅から、取り残された夢を見る


沈黙

  アラメルモ


亀が囀るように僕は冷蔵庫の冷蔵室を足で運び入れた
それは亀でも蝙蝠でも鶏でもいい
彼女に伝染するのが怖いからと唾液腺を溢れさせたい。


視線交換だけで済めば幸せでいられるのに
いつも言葉が邪魔をするのではないかと
たった六行の文字の中で何のコードが読み取れるというのだ。


風散れば花粉舞い菜の花が渡る季節
癇癪にも合成の炬燵布団(できるだけ関節痛)
くしゃみ省略。明日を生きるだけだ。

文学極道

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