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作品 - 20170724_459_9782p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


萌芽(ほうが)するまで

  渚鳥

(大事なものはどこに?)

的を外すための
散弾レプリカは幾千を唸り
プラスチックの装填は尽きて
悩ましげな春から転がり落ちていった

干からびた一途はことさらに
我が身に呼吸を合わせること自体おのずと
巡り合わせる息吹きのカタチだろうと呻いていた

…私はぽかっと空いた木の虚(うろ)の周囲をキョロキョロと窺い

わたしは知る
自分の血へ浅く深く流れ込む術(すべ)を
そして気づいたときには遮音された月の水底(みなそこ)で
ton ten fuwa… tsu… tsu

さまよい歩いていた
既に
上方の高みから覗いている視線を受けて
…ひしめいているおぼろげな夏の供養をあらためてなぞる


それらははじめ
…ポトン…チャポン……と
まばらに水面に投げ落とされ
クウルリ… と踊ってみせては
水の濁りを沸かせながら
すぐにもとの水面(みなも)を目指してしまう

私は彼らがフ… と溜め息を落としたあたりから
…すうと底を離れ始め
やがて …すーっと吸い上げられては
大きなホログラムの指先を
なんら迷いもなしに
…とん と蹴る
あとは太古の木の根の洞(ほら)を抜ける
薄墨(うすずみ)色の道しるべをすぐに見分けて急ぐ一方で
後方から頻りにサヤサヤ… と繁る青葉に続き
あとから
ザワ… とおおきく揺らいで
そして
夏の雨にさらされたあの( あき )がカサカサと
次々に土をめがけることだろう
やがて冷雨が駆ける
そんな予感を抱(いだ)いて
〈 …私は真水に近づくごとに
…ゴボ …リ むせて
いくつかの鱗片を余計に …きらきら と手離した
重たかったはずの鈍色が
今はきらきらと
それはよろこんで光ることだ
脱(だっ)する過程はこんなもの …〉


そして顔を覗かせたとき
'しるく'の小枝を
ボウッとくすんだ水海に馴染ませながら
まざまざと口中に捕らえていた
濡れた髪へハラリと差し込んだゆびさきは
  カラスのあしあと 笑窪 朝のひかりに透けながら儚げな微笑をこぼすあなた
  ああそうだったか
( もう いない 秋 )

刹那
フルッ… と燃え立ってはチラチラ… と消えた火影(ほかげ)を
眼窩に深く …見納めながら〉…

また移ろうのだろう
感覚が指先から足先までとたぱたと敷き詰められるまでの間(あいだ)
鼓動に包まれてゆく感情 …時計の音

そして大きく息を吐(は)いた
わたしを呼び続けていたものたちは
ソッ… と褪めてゆくのだろうな

( すけてゆく'わたし' は)

スラリと長い草の陰
とった
つたっ
と杖をつき あるいは
廊下を孫の手に引かれながら
大輪のアヤメに笑いかける
小さな目の祖母

何もかも消えたあとに蘇る光
生まれた季節を僅かに越えながら
還っていった母親たちの光は
私をやわらかく押し返す

私は
点と点の真ん中へんを
目指してゆこうか

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文学極道

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