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作品 - 20170710_878_9752p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


あの夜だけが

  bananamwllow

―昨日、
ヨシモトリュウメイ
が亡くなりました
いま、文庫の棚
をみてきたのですが
『共同幻想論』
在庫ありません

―人文の棚
にハードカヴァー
幾つかあります
お問い合わせ
あればご案内ください

その日わたしは、
務める書店で
一度も
ヨシモトタカアキ
の問い合わせ
を受けなかった



わたしには将来、
いっしょに
こども
を育ててみようか
と約束している
友人がいる
その約束
をするずっと以前
友人の両親
と話す機会
があった
ほら、このひと
ヨシモトリュウメイ
とか 読む人やで
と紹介され 
ずっと煙草を
吹かして
黙っていた
友人の父親
がその、瞬間
だけ微笑した
ことを
覚えている



まだ、東京
で わたし
が学生だった頃
M先生
の授業に
潜っていた

《ぼくが真実を口にするとほとんど全世界を凍らせるだろうという確信によって ぼくは廃人であるそうだ》

と、パッセージ
の一語
を読み違えて
先生は
朗読された
その後
わたしは
アパート
の浴槽
に湯を出したまま
寝入ってしまい
管理人
に起こされ
廊下
に積んであった
『初期ノート』
を水浸し
にした
乾かしてみたが
カビが生え
東京
を出るさい
捨てて
しまった



先に書いた
友人
の父親は
昨年
他界し
なんで
ヨシモトリュウメイ
よりさきに
うちの
父親が
死なな
あかんねん
と、怒った

いまは
ベナン共和国
に居る
その、
友人に
吉本隆明
が亡くなった
らしい
と告げると
昨年と
おんなじ
ことを云う



《もしも おれが呼んだら花輪をもって遺言をきいてくれ》

この、
「花輪」
ということばを わたしは、
ずっと
「かりん」
と読んでいて 
その、響き
はたいそう
美しい
と、ずっと思って
いる

文学極道

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