会社から帰る途中に
空き缶が転がっていて
道路の傍に
コロコロと転がっていくんだよね
誰かを
例えば上司を
無能だ、と心の中で罵ってみて
その空き缶の転がる道を歩いてく
剥がれていく
仕事中に書類で指を切って
そこに貼り付けた絆創膏が
ほの暖かい湯に浸って
だらしなく剥がれていく
僕が僕である悲しみ
という言葉の反対として
僕じゃないよろこび
というものがあるとしたら
主語はなんだろうね
絆創膏だろうか
鬱病になってしまった後輩からラインが来る
無理はしないでね(無理をしない程度に世の中に貢献してね
後輩は絆創膏のように剥がれていってしまったのかもしれない
君が君じゃないよろこび
空き缶の転がる道を歩く
歩く
何度も歩く
たぶん
無能だと思っていた人たちは
皆等しく無力なだけなのかもしれない
僕と同じように
剥がれていく
あさ鏡を見るたびに
耳が小さくなっている気がする
口が四角になっている気がする
僕が僕じゃない喜び(?)
鬱病になってしまった後輩にラインを送る
なんかさ、結局
世の中が全部悪い気がする
よくわかんないけど
俺頭悪いから難しいことわかんないけど
お前がお前のこと責めるのを俺が許せないっていうか
俺がフツーに働けてて
こういうこというのもすげー無責任だと思うから
お前がお前のこと責めるのを俺が許せない証拠に
会社辞めようと思うわ
まじ
止めないでくれよ
返事がない
ただの屍かもしれない(既読だけど
もしかしたら救えたはずの命を
見殺しにしたのかもしれない
遅すぎたのかもしれない
とりあえずセックスがしたくなった
愛とか恋とかそういうのじゃなく
ベッドの上で欲望の塊に成り果てて
なんかよくわからないけど
果てしなく意味のないセックスをしなければならなかった
そうすることが世界への復讐だった
意味や価値を求められて
失われていったものたちへの葬いだった
夜の街で女を買い
僕が救えたはずの命が終わったことと
それと同時に世界が終わったことと
僕たちは銃弾が飛び交う戦場のようなところで
ただ剥き出しにセックスをしなければならないことを
伝えた
女は見るからに商売女で
トクホの烏龍茶を飲んでいた
お金を渡すまでは僕の話を聞いてくれた
お金を渡したあとはスマホをいじっている
でもさ
若者の貧困は世の中が悪いと思うんだよね
俺頭悪いから難しいことわかんないけど
ある意味君のために俺会社辞めたんだわ
まじで
女は先にシャワーを浴びると言って浴室に消え
僕は部屋で彼女の体を見ないように努めていた
だってそういうものは秘匿されてなければならないから
女と入れ違いにシャワーを浴び
女の言うままにベッドに寝かされ
手コキをされた
僕は彼女を抱きしめたかった
ただ彼女は乳首は痛いといった
だから裸で抱き合うことはできず
僕はしごかれていた
正常位でいい?
そう言われて
いいよ、と言って
そのまま彼女が横になって
ローションを塗られて
挿れた
僕は彼女を抱きしめたかった
けれど彼女は足開きすぎると痛いと言った
だからそれは無理だった
彼女はスッキリとした美人だと思っていたけど
お腹が出ていた
綺麗に三段に分かれていて
わずかばかりに足を開くとそれがより強調された
僕は彼女を抱きしめたかった
彼女は
なんか萎えてない?
と言った
僕は手でしてくれる?
と頼んだ
いいよ、と言った
そのまま目を瞑っているとすぐ射精した
お互いにすぐに着替えてホテルを出た
火災が発生しているビルから脱出するみたいに
最新情報
選出作品
作品 - 20170603_670_9658p
- [佳] 僕は彼女を抱きしめたかった - 芦野 夕狩 (2017-06)
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僕は彼女を抱きしめたかった
芦野 夕狩