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作品 - 20170508_615_9600p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


春の川 自由律俳句百句

  田中恭平



ていねいに字を書く朝(あした) 

仏壇にあげる茶がなく水とした 

いつの世もこんなもんだぜって歩く野良猫 

すべからく澄む、終わりのはじまり 

愛を負って走る自転車チリンチリン 

どろっとした泥に自分みつけた 

豊かに苦い土の塊 

きみのため大切にとっておく職安のプリント 

くすりのんでくをすることの雨あたたか 

嬉しいことのそして風呂を磨く 

何か飛んで静かな朝のくらやみ 

体冷えきって静かな冷汗をふく 

早起きしてぼろぼろの体整えとる 

ぐちゃぐちゃな体ととのえてさびしい 

きみを願って今朝も働きに出ていたよ 

わたしの中にも仏性はあってほしかったのに 

敢えて定型
二十九の大路に母は喜ばず 

寒い日は寒さたのしむ床の中 

良い湯いただいて枝を折りとるおと 

わたしとひとは地球と月のとおさだよ 

火ィ消したか消した消したさむ、さむ 

もう聞かないで言わないで、雪、雪 

今ここにあるがままといって年とった 

ほのかな紅のめんこさと会う 

天使がいればあなたである 

カップのコーヒーこびりおとす十本の指だ 

障害に負けず息吹く、山の雪をみにいこう 

地球回転太陽煌々、そらいいぞ 

冬の野焼きはわたしが燃したここちする 

両眼泣く世の定めとしての大みそか 

野暮を競って芋ばかり食む 

つつがなく明日も今日の雑草として 

太陽にこにこ俺はまだ竹のごとくに 

竹のひかり充ちること体にいりくる 

さびしがらせる幻の声をまた聞く 

もったいなくも物捨つることやり直すため 

猫の寝ごとの昨日の鬼が怖かっただろ 

ねぇ子供すべてを知って飽きていくのか 

ひかりのどかな日洗濯機まわれ 

今日の昼食下げて父くたくたと帰ってきた 

敢えて定型
雪割草南無不可思議光豊潤苦 

寝すぎてはひとひ終えるに力の余り 

泥棒をしてこころの悪さとして鬱する 

北窓塞いで本の中心におる 

紅葉かわきゆく我がこころをみた 

賀正しんじん情けはひとを重くする 

図書館わたしの寄せた本があって嬉しい 

歩き足らない日を口中に埃の味 

仕事のない冬はつらい 

吊るした汗だらけのズボン 

春の川きらめき胸のそこまでながれ 

春の川神様になにもねだらず歩く 

春の川もう歩けないほど歩いてしまった 

春の川たたずむよくわからない体と 

ぽっと何やら春の川にひかりながれ 

いっしょに歩く春の川のとなりをきみと 

湯冷めしつつ縁側出ればゆうやけこやけ 

日がとなりのお寺へおちる 

脱世間月天心眼介宇宙 

すべての道は母なる樹へつづく帰る 

ここにある今筆をとり書く 

また幻聴のして野に咲く花は黄色い 

野に出ることもなくなり冬の金魚 

流れ歩くことお地蔵さんがにこにこ 

救われようともせず雑草は生える 

笹ゆれているくもりの日にひとが恋しい 

たゆみない川、会えないひとに会えない 

陽の甘そうにしかし冷たい風だなあ 

濁りやすいこころに新芽芽吹いた 

ひとり眠れば正しい時計 

安定剤含んで文句を捨てる 

低空飛行のことばを排しどこまでも 

よい仕事をしたあとの缶コーヒーの甘さ 

古い日記捨ててよい夢をみる 

皿が沢山在る 

髪ぼさぼさの物臭坊主こそわたくし 

止まれば山の歩けば山の山又山 

しんとした部屋にペン走るおと 

冷えたこころいやされ雑草のひかる 

川見て川としてながるる 

病者のそれはそれなりのくらし 

今はよろしい春のぬるい風受けつつ 

峠さびしい犬がずっとないている 

雑草ひかりわたしに春が芽吹く 

あたたかい部屋落ち着いて書く 

たんぽぽぽんぽん庭に咲く 

すずしさか寒さか朝のくうき 

シャッター開けると星を見つけた 

勤労の汗したたらせ帰る 

よい湯の今は自分の体を信じられる 

つつじに蝶の休息 

雲となる日まで草でいるわたくし

猫が風を求めて走る 

わたげのたんぽぽふっと吹いて縁側に座った

恋しい夜のしかし落ちつけてひとりで 

元気なきみにみえてふたり坂道下る 

ふりそうな空の暑さだけ残る 

ふたりのり弁食べてみどり濃くある 

さびしいなぁ、あそこの草に苛々する 

水飲んで醒めていく朝 


 

文学極道

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