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作品 - 20170506_502_9594p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ゲーテ時代

  芦野 夕狩

君に会うことがなくなってから
いくつかのかなしい出来事と
いくつかのたのしい出来事が
あった
たまに思い出すこともある
君と僕とがゲーテとシラーのように生きていたこととか
君と僕とは足してもゲーテやシラーにもなれなかったこととか
イエナの君の隠れ家でおこなわれた
うつくしい研究のきれはし
その全てを焼き払ったことは
君の預かり知らぬところかも知れない
その炎は未だ燃えているのかも知れないし
そうでは無いのかも知れない
いずれにせよ僕たちは断片であることを望み
僕たちは断片のように未完成のままだった
閉ざされていないことが、君が言うところの
真なる完成、と信じるのならば
話は違ってくるのかもしれないね

こんな風景のことをいつも考えるんだ
僕は放浪の旅の果てにどこかの公爵の命とか名誉だかを救い
その方にささやかな領地を賜り
そこには口汚いけれど
蜜蜂の世話をこれから一生していくことにうんざりせず
むしろその蜜をたまに味わえることがこの世の全ての
喜びに勝ると思っているような
そんなささやかな人たちが暮らしていて
干し草の匂いが胸の奥をからからとさせるような
そんな牧歌的な村に
いつだか消えてしまった君がひょっこり現れて
村を見下ろせる丘にある一本の樫の木陰に座っている
もちろん後ろ姿で君のことはわかる
だってその髪の結わえ方は昔と何も変わらないし
髪の結わえ方以外で人はそう変わるものではないし
僕は君に何というだろうか
元気か、とか久しぶりだな、とか
そんな月並みな言葉を君にかけて
君もまた
そうだね、とか色々あったな、とか
そんな月並みなことを
僕に言って
それからしばらく話をして
ここにいてもいいんだぜ、と言うと
是非そうしたいね、と君が言い
それでも君はたぶんここに留まることなんて
無いだろうと思いながら
耳をすますと
農家の人たちの声も疎らになっていて
ニワトリや馬も牛も静かになっていて
その世界の一日の
終わりを告げるように
太陽がゆっくりと
沈んでいくところを

文学極道

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