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作品 - 20170429_343_9577p

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のんちゃんの映画を観たんだ

  

のんちゃんの映画を観たんだ
アニメの主役を演じてたんだ
日本が戦争をしてた頃の物語で
マンガが原作らしいんだ
のんちゃんは昔は本名だったけど
大人の事情で今はのんちゃんなんだ

それはともかく
映画はとても面白かったんだ
笑って泣いて感動したんだけど
本当はちょっと怖かったんだ
みんな平和に暮らしていたのに
少しずつ戦争に慣れていくんだ
食べ物が配給になることにも
いつもお腹が空いていることにも
千人針や出征祝いや万歳三唱にも
防空壕を掘ったり疎開することにも
竹槍演習や防空訓練にも
毎晩のように続く空襲警報にも
やがて本当に飛んできた敵機にも
降り注ぐ爆弾や焼夷弾にも
知っている人が焼かれることにも
大切な家族の戦死公報にも
異常なことばかりなのに
それが日常になっていくんだ

そうして、すっかり戦争に慣れた頃に
最初は広島に、
続いて長崎に、
取り返しのつかない爆弾が落ちて
ようやく戦いが終わりになったんだ
みんな色々なものを失ったけど
もう空襲警報のサイレンは鳴らないんだ
最後に新しい希望が家にやってきて
物語は静かに幕を閉じたんだ

僕たちは満足して映画館を出たんだ
あまり、きれいではない空の下で
あまり、きれではない空気を
胸いっぱいに吸い込んだ時に
いきなり
みんなのスマホが鳴り出したんだ
それは僕たちの時代の空襲警報
どこかの国のミサイルが発射されて
もうすぐ僕たちの街に落ちるらしいんだ

のんちゃんの映画で終わった戦争が
のんちゃんのいる現代に蘇ったんだ
僕たちは防空壕の代わりに
地下鉄の駅を目指して走り始めた
何人かはスマホで空を撮影している
そんなことをしていたら死んじゃうよ
バラバラになった君たちの死体を
あとから僕たちが撮影しちゃうよ

だいじょうぶ、僕たちもすぐ戦争に慣れるさ
そして大切なものを次々に失いながら
取り返しのつかないことになる時を
ただ息を潜めて待ち続けるんだ
その後に平和はやって来るのかな
その時に僕は生きているのかな
僕はダメでも、のんちゃんだけは
今度も何とか生き残ってほしいな

文学極道

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