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作品 - 20170330_732_9517p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Kite flying

  紅茶猫

暗い穴が
無数に開いている星の上に立って
宇宙に凧を上げていた

足下の穴に
誤って
小石を
落とした時は

ぽちゃん、と
音がするまでに
辺り一面真っ暗になってしまって
僕は道具を片付けて
家に帰るところだった

ぽちゃん、
雨水の音濁る、

漆黒の宇宙に
風を探して
凧が
星の一つに届くようにと
ありったけの糸を
闇へ繰り出した

けれど
右手に握った糸の端には
重さという重さが
全く存在しなかった

凧が上がっているのか
僕が
果てしなく
落ちているのか

伸び切った筈の糸は
するすると
手のひらを
滑り続けている

それもそのはず
糸は
いつのまにか
僕の手のひらから
繰り出されていた

まるで蚕が
糸を吐くように

糸が出尽くしたら
僕はこのまま
宇宙に投げ出されてしまうのだろうか

ハサミだ

左手で
道具箱を
必死に探った

あった

赤い柄のハサミ

僕は
熱を帯びて
出続けている糸を
ハサミで
ぱちんと切った




(落下)



今度は
穴の中に
落ちている

足を踏み外した覚えも無いのに
気の遠くなるような速さ

僕を宇宙へ
引き上げる筈だった糸が
右手の真ん中から
だらしなく垂れている

落ちながら
糸を引いてみた

すると
糸は際限なく出てきた

落ちながら
糸を体中に巻き付けた

少しは
落下の衝撃が
和らぐかもしれない

突然
眠気が襲ってきた

僕は糸をぐるぐるに
巻き付けて
繭玉のようになっていた

この穴は
一番深い穴に違いない

ぽちゃん、
雨水の音濁る、

そういえば
落ちながら
穴に底のある幸福を
少し思い出していた

文学極道

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