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作品 - 20170317_415_9496p

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カンパネルラ!

  芦野 夕狩

カンパネルラかもしれない
同僚はそう呟いて冬の街に消えたきり
もう会社には二度と現れなかった
僕はカンパネルラ症候群だと思った
けどもそれはまだカンパネルラ症候でしかなかった

同棲していた彼女が
カンパネルラかもしれない
そう呟いていなくなった時
それは確かにカンパネルラ症候群になった

ロヒプノールの錠剤が青くなったことと
関連しているのかもしれない
明るさと上手くやっていけず
活字を読みとるためだけの
デスクライトに照らされた部屋には
ペットボトルや靴下や
なんのために存在したかもはやわからない
紙がちらばっている
砕いたロヒプノールの錠剤が
絨毯の隙間に滑り込んでいる
このまま滑り込み続けて
この部屋が取り返しのつかない青に
染まればいいのに

僕は人間である前に
一塊の鉄である
果たして本当に必要なのかもわからない仕事を
毎日こなすためには
そうでなくてはならない、ということだ
たまに昔読んだ活字を手に取るが
それはカンパネルラではなかった
ロックミュージックをかけても
それはカンパネルラではない

ある人は人生は累乗されうるという
僕にもその意味がわかっていた頃があった
僕がまだ物語であった頃の話だ
ロヒプノールがまだ雪のように白かった頃の話だ

雪の降る日。まだ白い雪。僕は確かにキリマンジャロの山頂付近にいた! となりで豹が凍り、カンパネルラ、と叫んだはずだ。そして子供たちがそれぞれ独特のやり方でミルクをこぼし始め、世界怪獣がそれを見て笑っている。女の子たちは風の歌をうたい、男の子たちはそれに乗ってみんな海賊になってしまった。ミルクは一杯の地球では収まり切らずに、僕の部屋になだれ込んで来る! カンパネルラ! 叫ぶと青色職人が女の子たちを一人ずつ凍らせていき、風を失った男の子たちが陸に行き着き平凡な生活を始める! カンパネルラ! 今日から収入と支出の記録をつけて、将来老いてから病気をやっちまってもなんとかなるようにしようと思います! ミルクはブクブク泡を立ててホットミルクになってしまった。これでもう誰も凍りつかない! 僕のとなりでは決して凍りつかないような健全な女が寝ている。カンパネルラ! 叫んでも凍りつかない。なんて健康なんだ! もう誰も凍らない、凍らせない、凍れない! 男の子たちは絶望する! 女の子たちも絶望する! 世界怪獣は凍っちまえよ ベイビーを歌い始め、それと同時に凍らない ゆえに ビューリフォーを奏で始める! 僕は一塊の鉄だ! カンパネルラ! 僕は凍らなかった、僕のとなりで豹が凍った、僕は海賊だった、僕はカンパネルラじゃない、僕はミルクをこぼした、女の子が凍った、僕はホットミルクの中で凍った、みんな凍った! らい病研究者になった世界怪獣がそれを見て美しいと言った、美しくないよ、と言った

文学極道

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