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作品 - 20170310_239_9486p

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#05(ダベリ)

  田中恭平

 残りのiqosのヒート・スティックは三本だ。
巧く構成した詩編をかけたらいいのだけれど、ともかくトライしてみようと思った、簡素で温度25℃の寝室で。
 何度も繰り返し書いてきたことだけれど、欲望を指すdesireは欠損語de を冠したstar 星のことであるということ。
星を失くした事象が欲望の根源であるということ。なんでこんな話をしているのだろう? と、なぜ私は私に問いかけているのだろう。
去勢された雄猫の睾丸部分はその精巣がないにしろ、ぷくっ、と二つ膨らんでいる。
私は猫と戯れているときそのぷくっ、とした膨らみを指で押してみることがしょっちゅうである。
猫はいつも通り寝ぼけまなこでこっちに顔をやるがすぐに背けてしまう。
何か文献で読んだのだけれど、猫は一日十九時間睡眠を行っているらしい。
これは生理現象を行っている最中でなければ大概はまどろみの中にいるということだ。
 まどろみといえば、私は白夜を想起する。グリーンランド、ロシア、ザ・ユナイデッドステイツのアラスカ州。
猫は我が家にいつつ同時グリーンランドで生きていると思っているのかも知れない。
二匹の雄猫は去勢されて大変穏やかになった。やはり苛烈な生の衝動は睾丸にその秘密があるということだろうか。
まあこんな睾丸の話はこれくらいにしておこう。それにしてもビリー・コーガンの歌はなかなか悪くないんじゃないか?

 睡眠薬にはその多くに依存性がある。このテキストを書いているとき、私は既に眠剤を服用している。
その上でコーヒーを飲み、パソコンのウィンドウの前で体を固定化させてこのテキストを書いているということだ。
それにしても、このテキストの一体どこが詩文なのだ?
しかし、書く、という行為に関しても依存性が生じるようでなければ詩人とはいえないだろう。
私は詩人ではなくて幽体だけれども、いつも議論の俎上にのぼる詩人の条件とはテキストと書くことに対する依存性を獲得しているかどうかに依るのではないか。
自ら依存性を獲得することが、賞賛されるべきものかどうかは別として1950年代ビート作家達がこぞって物を書いたこと
これに対してフランス文学の鈴木創士氏はとてもおかしなことではないか?と疑問を呈していたが、書くこと自体に依存性があるのであれば
自らマゾに自身の中に依存性を獲得しようとしたビート作家どもがこぞって物を書いたとすれば何ら不思議なことではない。

 私は昨日、四年半毎日コピー用紙に書きつづけてきた日記を書くことを辞めた。
色々な変化がこの一週間の内に起こったのだけれど、何より恋愛と勤労という二大テーマに挟まれて日記を書くことに対するウェイトがしんどくなってきて辞めてしまった。
それが今日の昼になったら、今日の昼食──はくまいごはんに納豆に豚汁と記述していたのであった。
記述に対する解毒剤はないのであろうか!
さて、話を睡眠におけるまどろみに戻せば私は酷い睡眠薬依存症に陥っていたことを告白する。
私は統合失調症を発症して、20のときに発症したので9年間この病気と奮闘を繰り返していたのであるが、
やはりこころがはりさけるように苦しい狂いに耐え消えなくなって、最初は、夜含む分の睡眠薬の錠剤を割って、口に含み、蒲団の中に入ってじっと天井を眺めていた。
今起きても、まず目に入ってくるのは、独特の模様の形をした天井柄である。
多くの小説を読んできたつもりだけれど、朝目覚めるといつもの天井だった、といった表現は読んだことがない。
まあ、フランスの写実に長けた文学者はこの手の表現をとっくに行っているのだろうけれど、もしもされていないとしたら
私が特許申請みたいなことをしておく。狂気によって奇行ははだはだしく、窓から夜裸足で家を抜け出ると、コンビニで食事をとった。コンビニの店員というものは裸足、コンビニで入店しても別段気づかないのか、気にしない、ということを私は知っている。庭で小便をして、朝四時に起床するようになり父に激怒され、自分はこのまま生きながらに死んでいる、つまりずっと眠っていた方がいいように思えてきたことは睡眠薬依存に拍車をかける結果となった。
 
今はすっかり回復している。それにしてもニコチンが止められない。
芥川龍之介だったか、煙草は悪魔が日本に持ち込んだ、と書いていたような気がする。芥川は一日に百本は煙草を喫っていたようだけれど
短編小説家という印象が強いせいか、百本煙草を喫っていたにしては生産性が少ないような気がするのは気のせいか。
音楽が流れている。ルー・リードのベルリンのライヴアルバムである。コーラスが天使のようだ。いつか過ごした白夜の夜の数々に感謝を。
私はやっと深層部位から清々しい水を掘り当てたような気がするよ。
感謝に睾丸二つでも捧げたいけれど、私には愛するパートナーがいて、あと三年くらいしたら子供を生んでほしいと考えている。
ラヴアンドシンパシー。
今日もあらゆる土地で去勢がなされた、コーヒーが飲まれたり残されたりした。
煙草が喫われた。
病者の口が渇いた。
睡眠薬が服された。
セックスがなされた。
みんな、おやすみ!おやすみ!
iqosのヒート・スティックがなくなった。

文学極道

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