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作品 - 20170221_404_9451p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


緑衣のレースに被われた切り箱

  アラメルモ


君、きみね、収集した言葉なんて本棚に飾って置くものじゃないんだよ。

あれは食べた後からトイレに座り込んでは流される、つまり消化するものじゃないのか?

次の日の朝も快晴だった。いや、もう少しで昼時を迎える時刻だろう。
理由もなくだらだらと夜更かしが続いていた。
眠らないのではなく、眠れないのだ。
きまって食事の後には居眠りをしてしまう獣のような癖。
充満する一酸化炭素に雨上がりの湿気。この重苦しさは誰かが祈祷する呪いの黒煙に違いない。
昨日の夜は心臓に違和感を感じてまた神に誓ってしまった。
目覚めればきっと喫煙を止めるでしょう。
「山積みにされた粉塵」を、と
箱書きにはそう記してある。

人混みの中を行く快感は何かべつのモノを身に付けているからだ。
虚栄心に満たされているときほど私の周囲も明るい。
賑わうデパートの階段を、パリッとした詰め襟の学生服で歩いている。
白いひかりに包まれた世界の、挿し挟む闇を支配する旅人である。
洋服売り場の混雑を比較すれば、古本市の催し場はまるで戦場の跡だった。
さっそく物見遊山と上下左右に眼が翻る。
古い函に収められた書物の前で立ち止まるが、漢字が読めない。外国語で書かれたモノも多かった。
ルイ,アラゴン、19世紀末、巴里、ランボウetc.
どうやらここが詩集や思想史のようだ。
このような書物には何故か魅力を感じてしまう。
何冊か手当たり次第に掴み出した。
持ちきれないのでどうしたものかと迷っていたら、傍に果物入れを横に切ってある箱が置いてあった。
本を斜めに積み重ね、そのままレジに持って行こうと起き上がれば、一人の紳士が私に声をかけてきた。
(おやおや、これはまたお高い書物をお買い求めなさる。)
値札をまったく気に留めてなかったことに気がついた。
改めて見れば一桁数が多いではないか。
一瞬あたまから汗が引いたが、私はその箱を紳士に授けて逃げ出してしまった。
北向きの風は強く、翌朝も快晴だった。
何かに追われるものも無いと悟る。いや、悟ってもいない。
忘れ去るだけで、何も残ってはいないだけだろう。
そう、考えれば考えるほど手元に置いておきたくなる遺物を
、持て余すのはオレンジ色の網目。
神に誓う度にまた同じ嘘を吐く。
珈琲が喉元を過ぎる頃には煙草に火をつけていた。

文学極道

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