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作品 - 20170215_255_9443p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


こわれた日

  

その日、
空がこわれた
その前から季節もこわれていた
いつの間にか人々もこわれていて
雨上がりの路面には
心のかけらが散乱していた
それなのに
誰もが見て見ぬふりをしていたのだ
雨上がりの路上に横たわる
子猫の死骸に対するように
見えないふり
聞こえないふり
そんな行為には
何の効力もないというのに

ずっと流れ続けていた音楽が
ついに終わりへ近づいて
すべての輪郭が崩れはじめる
永遠を構成する
「美しい細胞」であったはずの
わたしたちも崩れはじめる
こわれて燃えだした空を
みんながスマホで撮影している
だって頭がこわれているから

みんな腕を伸ばして
ぽかんと口を開けながら
こわれる世界をスマホで撮影している
焼け落ちていく空を
スマホ
スマホで
たくさんのスマホ、スマホ、スマホ……

撮影する母に抱かれた赤子や
幼い子どもたちや
機械が苦手な老人たちだけが
肉眼で見ていた
焼け落ちていく空を
肉眼
肉眼で
無力な肉眼、肉眼、肉眼……

最後の音がEコードで終わると
空の炎が人々へ燃え移った
スマホを通して見ている者も
肉眼で見ている者も
みんな平等に燃えている
人が、その歴史が
愛が、憎悪が
不安が、やすらぎが
あらゆる記憶と記録が
砂紋のような文明が

やがて炎は
人以外にも燃え移った
空を飛ぶ鳥も
水に潜む魚も
大地を駆ける獣も
始まりの記憶を持つ微生物も
みんな平等に燃え尽きていく

こわれた神様だけが
泣きながらそれを見ていた

文学極道

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