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作品 - 20161230_866_9377p

  • [優]  油壷 - どしゃぶり  (2016-12)

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油壷

  どしゃぶり

親の身体は不思議だ。子どもはえてしてお父さんの穴をみつける。洞穴を覗くと、血をたたえる磯辺。岩場の隙間、ざざん。ざざん。ざ、ざん。ざざ、んぼ。と波を聞くうち、環形動物が血を吐く。吐き出し。吐き、出し。また呑む姿がみえる。でも、おれはみなかったことにしたよ。そうして生きてきたよ。やがて生まれたばかりのおまえ、倦まず、おれによじ登り、首筋を小さな指でつつく。穿つ。ひらかれ、裏返る、おれの身体。

お父さんの穴をたとえるなら理科室脇の階段といえようか。白く脱色した蛇、鼠、鮫のホルマリン漬け、孔雀の剥製、脳、創立百三十周年のラベル(誰の脳髄?)。その奥に階段はある。おれはもう大人なんだから。ふと思い立って降りる。立小便するように。そこは油壺の水族館でした。前庭のタイルはひびわれ、あらゆる飼育員から忘れ去られた、ここは星。あらゆる病を詰め込んだふるさとだよ。腐った水に逼塞する細長い生き物。その一匹と目が合った。

足の親指に疣。紫色した菟葵のような疣。頼りない輪郭線を描くシステムによって、なんとかおれは維持されている。今夜、もののはずみで内破(evolve)。あとからあとから殺到する疣。疣以上の疣。押しのけ押しのけ打ち破る豊穣。末梢から熱帯雨林。繁茂。繁茂。おれが木になる(身体はどこからどこまで?)。おれの、おまえの、皮膚の下。潜む富士壺。
油壺。

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