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どしゃぶり

選出作品 (投稿日時順 / 全4作)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


連祷:farewell

  どしゃぶり

1
「わたしはここにいる」そういい残して、おまえがコンテンポラリーなコンテンツになっていく。おれはおまえを美しいと思えず、さりとて勃起もできないからコンドームもつけられやしない。おまえは身体を分解していってレイヤーに剥離していって、おれはそれを見て何を思えばいいのか。さよなら。おまえが地表に燃え広がっていくさまをおれは見送る。さよなら。おれの身体はおまえほどばらばらになりやしない(なんでだ)。降り注ぐ流星雨をのみこむ冷たいおまえ。さよなら。

2
おれは祈る。おれはおまえが巧妙にデザインされコーディングされたゆらめきに過ぎないと知っていたし、つまるところ、おまえには死んでほしい。だが祈らずにはいられない。おまえのしあわせを。性欲はせせこましく、舐めては吐き出し、手の中で空想になったおまえの最後の骨。が転がっていくその指先の向こうにこそしおからい原野。に佇む人。はおれの肩に手を置き、ただ頷いた。瀑布のように。許された。御御堂に満ちる蜂蜜は涙だった。おれの。

3
針葉樹林から逆巻くおまえのさみしさが幾つものたて看板をなぎ倒して人々の鼻腔を砂漠化する。ぷちぷちとした食感と形容されるほど解されたおまえもおまえもおまえも省みられない誰からも。「何でも質問してください。一粍だけでもこの都市から浮き上がるために。」ハイキーに焼き付けられたおまえは陰毛の上半分を剃り上げて叫ぶ。シアンの残照と送電線が交差する空に向かって叫ぶ。落下しながら。落花。しながら。その先は男たちと男たちと男たちが浸透した性欲の海。

4
男が打ち寄せる渚。早朝、性欲が砂をさらう波打ち際。おれは待つ。待った。待った後。おまえは砂洲に降り立つ。おれはおまえの目の前で、おまえの彫像を建ててやる。おまえという偶発性に胚胎されたおまえ、おまえが胚胎する偶発性というおまえの像を。おれとおまえ、二本の細い線分に記された稗史の結び目に足を取られて、おまえは砂の上にばったりと倒れ込み、砂だらけの顔をあげるだろう。そして、おれはもう一度おまえにいう。おはよう。


west coast

  どしゃぶり

早くあのこに追いつきたくて
よそ行きのぼくに/を打つ
きゅうりのピクルスを刻むように、こまかくこまかく
おいしいサンドイッチができたら
コーヒーをクロスプロセスに加工して
いつもの味

早くあのこに追いつきたくて
だれかれ構わず寝る子のように#を打って
「なんか面白いことしましょう」と言ってみる
「一人ひとりテーマを持つ。そして世界は少しずつ、素敵になるの」
と、あのこは言うけど、
ぼくには生きている実感しかなくて、生かされている気がしないんだ

いろいろあって、ぼくはここから動けません

今頃あのこは夜明けのビーチで
いま、ここ、わたし、に向き合いながら
林檎を相手に自慰行為をするのだろうか
そのあと
赤ら顔のおじさんが大量に流されて木星の大赤班のようになった地点をgoogle earthでチェックしている姿は
何となくだが想像がつく

あのこは自由に恋をするより、たたかうほうがすきかもしれない、本当は
すべての武器を楽器に(註)変えたら
そいつであのこと殴りあおう
これでぼくらは
やっとおあいこ


註)喜納昌吉『すべての武器を楽器に』(冒険社 1997)


油壷

  どしゃぶり

親の身体は不思議だ。子どもはえてしてお父さんの穴をみつける。洞穴を覗くと、血をたたえる磯辺。岩場の隙間、ざざん。ざざん。ざ、ざん。ざざ、んぼ。と波を聞くうち、環形動物が血を吐く。吐き出し。吐き、出し。また呑む姿がみえる。でも、おれはみなかったことにしたよ。そうして生きてきたよ。やがて生まれたばかりのおまえ、倦まず、おれによじ登り、首筋を小さな指でつつく。穿つ。ひらかれ、裏返る、おれの身体。

お父さんの穴をたとえるなら理科室脇の階段といえようか。白く脱色した蛇、鼠、鮫のホルマリン漬け、孔雀の剥製、脳、創立百三十周年のラベル(誰の脳髄?)。その奥に階段はある。おれはもう大人なんだから。ふと思い立って降りる。立小便するように。そこは油壺の水族館でした。前庭のタイルはひびわれ、あらゆる飼育員から忘れ去られた、ここは星。あらゆる病を詰め込んだふるさとだよ。腐った水に逼塞する細長い生き物。その一匹と目が合った。

足の親指に疣。紫色した菟葵のような疣。頼りない輪郭線を描くシステムによって、なんとかおれは維持されている。今夜、もののはずみで内破(evolve)。あとからあとから殺到する疣。疣以上の疣。押しのけ押しのけ打ち破る豊穣。末梢から熱帯雨林。繁茂。繁茂。おれが木になる(身体はどこからどこまで?)。おれの、おまえの、皮膚の下。潜む富士壺。
油壺。


(無題)

  どしゃぶり

 一、

ずっと昔、一基の灯台だったころ
蠍の祭で頸をきられた
ぼくたちのからだは書庫に打ち棄てられたまま
頸の断面から夜ごと伸びた羽
ヒヤシンスの芽のように
紫色のこどもたちの実がなって
ぼくたち、切り刻まれながらも
世間を知った
あれから、ぼくは
土くれを寺院にして僧侶になった
夜にはほそい四肢に炭を塗り
砂浜にひとり
火を鏡としてくらす
そこにきみの顔がみえた気がしたから
けものたち、あたたかい
どうか、このまま
朝まで血をくべて

 
市、

橙色の麦ばたけできみをみた
その日から
葡萄をふみしだく花嫁の足首
船をひく偏西風の手首
古時計のねじの回転に
きみをみた
夏の空におちる火のなみだ
灰を塗った顔は
きみだった
 
 
位置、

この街の
一番高いところに立つきみは
風にたなびく
かみのようにまっしろく
あんなに強い風、あそこからやってくる
砂漠に生える葡萄の木の下あたり
砂に抱かれて沈んでいった
閉じた瞼に映る涸れ川あたり
今にも張り裂けそうな葡萄の実
それらがたたえるあまい水は
忘れ去られた川の記憶だ
煮出された血液は
複雑な水路をたどり
やがて色はうしなわれ
みんな、みんな、
きみへとつながる

きみの横顔を映す鋏で
きみはみずからを刻んでいく
風は吹き散らす、足の先から
まっしろな切片を
最後のきみは、どこに宿っていたのだろう
この街はきみで埋め尽くされて
ぼくはみうしなった
さようなら、こんにちは
簡単なおしゃべりが
今もまだ終わらない

文学極道

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