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作品 - 20161222_571_9358p

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explosion

  湯煙


なんだ?と問いかけても、男は言葉を濁し、口ごもるばかりだった。よく聞くとなにやら買い取ってほしいと言って情けなく飢えた眼をして懇願をする。二度三度その訳を訊ねるも、男はなぜか言葉を濁し口ごもるばかりだった。仕方がないので、その気はなかったが五つだけ買ってやった。しばらくして三つを縦横に張り巡らされている街の血管へ流し込んだ。その日のうちにはずれにまで流れ着き、そこで大量のブツに紛れてさらに仕分けられ、そしてさばかれ、明け方近くにはようやく一つに束ねられることとなる。

手付かずのままの二つについては、親類にあたるガキどもにくれてやれば物珍しさで喜ぶのかもしれないし、祖母や祖父ならば箪笥の奥に丁重に仕舞ったり、仏壇に供えてまた残りの余生を過ごすのだろう。遅かれ早かれポケモンGOも飽きられる頃合いだ。我先にレアものをゲットすべく方々をさまよい求めて歩くも、なぜだと思うまもなく早々にバッテリーが切れてしまい、約束の時間が過ぎてしまう。それは当然だろう。おれが男から買い取ったものにはまだ半年以上の猶予がある。そしてすべては日進月歩だともいうのだし、なにも急ぐこともその理由もない。いずれにしろ上空はあちらこちらドローンが旋回し、コートの内外はいっそうにぎやか。世事に耳目をくれてやれば新世界のドンには"TRUMP"なるものが君臨し、多忙を極めつつある。ヤツはまったくペラペラとよく動く新手てとこなんだな。

瞼を閉じて両手を合わせ、そうしてとりたてて願わなくとも2017(平成二十九年)はやってくる。変わらず厳かなる顔をし、静寂に白い朝をくるみ。そこにふと幻影であるようにしてもう一人の男が、穴の空いたような眼の底をちかちかと青く胡乱な光で満たしてしばし立ちすくみ、そして運んでくる。誘われるがままのぞきこめば声はこだましている。"生き延びる手立てがなかったんだ"

文学極道

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