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作品 - 20161202_015_9312p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


クローン誘拐

  ゼッケン

男は小さな応接テーブルの上に置かれた紙包みを手に取った
中身は500万円の札束で片手で掴める
重さを量るようにすこし上下に揺らした後、包みを破ることなく傍らのボストンバッグに放り込む
その間、男はおれの目を見ていた
おれも男の目から視線を逸らさない 男は言った

あなたはこれを恐喝だと思っていない

おれは推量が鈍い奴とは組みたくないと言った
男はおれの自宅から出るごみを一週間ほど漁り続けておれの
生きている細胞を見つけ、胚にまで育てた、あなたのクローンです、市販のキットがあれば幹細胞化はアパートの部屋でもできるんです、買いませんか?

あなたが金持ちだってことは知ってますよ

ホテルの一室でおれは男に金を払い、男はこの500万円は自分のビジネスに関する情報料だと言った
つまり、投資の勧誘です、ゴミからクローン
を作って候補者を脅すのは面接の一環です、ふつうの人間は
どうして金を払わなければならないのかさえ理解できませんがある種の
あなたのようなタイプは、私と会って話がしたくなる
男は自分の事業を簡単に説明した、美男美女のゴミクローンを売ります
サウジやナイジェリアの富豪たちに、おれは男を遮って美人のクローンを育てるのかと聞いた、男は
育てるのは彼らです、と言った、

お好み通りに

男は不細工だった、おれは不細工とも組みたくない
妬みをビジネスにするからだ
だが、おれは出資を了承した、条件はいま育っているおれのクローン胚を代理母に出産させること
その費用や医者はおれが用意する、おれは男の事業には一切の興味はないが金を出し、組織化する、その一方で
警備されたゴミ収集サービスは良い事業になる
ゴミから細胞を探し出してクローンをつくる男の執念をおれは軽蔑する
分散化された脳神経のブロックチェーンが意識の同一性を保証するのである、おれはクローンに欲情しない
男がおれのクローンだと称するものはおれのものではない、男がサンプルとして送りつけてきた分割卵のDNAはおれ以外の男だった、
周囲の人間を片端からDNA検査すれば間男はすぐに見つかるが、それはおれの信仰心が許さない
おれが養子として引き取ってきた男の子がだんだん誰かに似てくるとすれば、
妻は恐れるだろうか? 愛おしむだろうか?
おれはどれだけ自分自身を苦しめることになるだろうか?
復讐は罰ではない、愛は善ではない

たいへんに見ものだ

諸君

復讐は時間がかかるほど良い
愛と同じように

文学極道

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