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作品 - 20161201_991_9309p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


病院と蛇 / Bible

  西木修

I


もし、私を断罪したいのならば
まずは私を丸ごと飲み込め
それから、吐き出し首を切り落とすといい


それでなければ
地の果てまで這い逃げる
私は蛇 蛇 大蛇


死の匂いと、狂いかけの瞳を抱いた
一つの尿瓶を追いかけよ


僕らの前奏を無視しながら
蛇は進む


名名、老人は咳き込む
とりとめのない口先の方便
車椅子はキュルキュル進む
それは、あらゆる音の始まりのような気さえする


ルーティンの点滴と、
夜中の呻き声は彼等の遠吠えだ
その声は僕を呼んでいる
寸で止めるのは、
あらゆる地獄の門


干からびた希望に、水を一滴落とそう
蛇は恙無く立ち返って来、
病院の体を蔦のように絡めている

II


僕にとってのソドムは
新宿歌舞伎町あたりである


巨大なゴジラの人形が、
手前を上回る虚無と焦燥で、
身をよじているように見える


僕にとってのゴモラは
渋谷センター街あたりである


入口付近の
巨大な電光掲示板が
滅亡の流行りなアンバサダーに見える


僕にとっての聖書とは、
君に会いにいく電車の中での、
醜く小さき、打算のことだ


山手線外回り
ディスプレイに映る路線図が、
円形脱毛症の祖父の頭に見える


硫黄の匂いがして、
僕はひそひそ笑う
此処で
愛はアナクロニズムだと、
気付いてしまったか
総ての地獄とは、
蓋然性を途方も無く信ずる
我々の目の奥に有る

文学極道

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