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作品 - 20161025_972_9207p

  • [佳]  浴槽 - ゼッケン  (2016-10)

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浴槽

  ゼッケン

ぼくのパパはクソヤロウです

小学三年生になる息子が参観日でぼくのパパという作文を
発表するというのでおれは
仕事を休んで見に来た、なぜなら、息子の顔が
最近、おれの顔を見て笑顔になるまでに一瞬だけ表情をなくす
その瞬間の存在をおれは見逃さない
生きている表情は途中で欠落するものではないからだ、それは時間の
彼の生の中断を見せられるようでたまらなかった
おれは身をかがめ、息子の細い両肩を抱きしめるが、おれの肩越しにある彼の顔を見るのが怖い

担任は息子の名前を呼び、息子は元気よく返事をすると立ち上がり、
おれの隣に並んで立つ母親を振り返って笑った
おれを見ずに顔を正面に戻し、原稿用紙を両手に掲げる
ぼくのパパはクソヤロウです
海外留学中にオンナを妊娠させて逃げました
そのオンナがどうなったと思いますか?
海外でひとりで中絶手術を受け、なにごともなかったように
短期の語学留学を終えて日本に帰ってくると
大学を卒業し、小学校教師になりました
そして10年後、クソヤロウの息子の担任になりました
でも、じつはこれがぼくのパパがクソヤロウだという理由ではありません
ぼくのパパがクソヤロウなのは保護者面談で担任と正面から向かい合ったのに
ぼくのパパはそれがあのオンナだと気づきませんでした、笑顔でセンセイとオンナのことを呼んだのです
オンナは復讐してぼくを洗脳してぼくにぼくのパパをみんなの前でクソヤロウと呼ばせました

おわり

教室は静まり返っていたのか騒がしくなっていたのかみんながおれを見ているのか見ていないのか
おれには分からない、ただ、ただ、そんなつまらない理由でおれの息子を淫らにもてあそんだ女教師を引き裂いてやりたかった、
それから息子に許しを請いたかった、それから隣に立つ妻の名誉を汚した咎でおれは死なねばならない
こんなことでおれは死なねばならないのか?
震えるおれの手を妻が、しかし、そっと握っていった

だいじょうぶ、わたしもあなたをクソヤロウだって思ってたから でも、
わたしはひとを軽蔑するのが好きなの
あなたって最高よ

おれは安堵の涙を流した、笑顔の息子と笑顔の妻と笑顔の女たちに囲まれて
おれは人生でもっともうれしかった

文学極道

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