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作品 - 20161021_762_9197p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


屈折した詩人たち、出逢った友に、捧げる

  玄こう




   無題

この身ならぬ一日を、一字一句を抱え、はらいせる、散文を走らす

記憶が省かれていく、誰のためでもない、こ、そ、あ、ど、れって適当

少しずつ離れていく故里とを引き裂く空に 、私の両手の目や・足や

ハンドルを廻し、アクセルを踏み込む。、、カイロスの風が車内をうずめいている



生き死をわかつ特攻操縦士が競う、夜のテントの見せ物屋台船、一斉に明かりを落とす。おとり操作の機銃飛行から数えきれぬ弾丸が、見張りのデッキに立つ祖父のこめかみをすり抜けていった。命中はただ一発だが私は今も生きていた。物資を運ぶ貨物船に祖父は、通信士だった。一隻一隻の仲間の船は魚雷の激突と共に炎をあげながら沈んでいく。隔てた故里をあとに沈んだ人々、その生き残りの船はただ一隻だった、と通信を打ち続けた。船の見張り台に立ち打ち続けた。爺はそんな昔を昔話のように、語って聞かせてくれた。



故郷からなぜかしら記憶がそうしてよみがえっていたから、帰郷を済まし私は歯の痛みを抱えながら、一夜のハイウェイのなかで記している。長旅でもないのに、帰るあてどがどこへやら失踪したい欲求にかられながら、停泊、(2013/05/05/23:00)
無人のシャトルバスの窓のなかにうつしこまれた乗客座席うっすらと青白く照明を落とした車内にポツリ男が見おろしている。狭い視野の二重窓から誰かを待つふうな眼鏡の若い貌影になかんずく私はそれを見て車内で宿をとることに決めた。



**

   17歳

ある日ぼくは青い夕日をみた。氷のように冷たく、鉄のように固く、刃物のように鋭い夕日だった。そいつは空をなめまわした。そいつは空をくっていった。黄色いピンクのお面は、冷たい青いマスクにかわっていったのだった。
ある日ぼくは青い道を歩いていた。わき道の景色がどんなに寒々としたものであるか、
冷えた空気が死んだ霧のようにたちこめていた。そのときぼくのまわりの景色がぼくを捕らえようと、おくそ笑みを浮かべながら白霊の吐息がぼくをしばりあげた。ぼくはミイラのように固くなった。ぼくの体はとんがりだし、ぼくの肉は外にほうりだされた。さっき空をたいらげていたそいつは笑いながらこう答えた。

 「まわりがこんなに青いのはおまえにとってとても幸せなことだ
  誰がおまえを征することができようか
  これからおまえは詩人になりすまして旅をする
  おまえの外界を退いた空間のなかで
  しかしおまえは詩人の声をきき、旅をする
  これからおまえは詩人たちと出会い
  彼らの清純なる魂をみていくことになろう。」


・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・


  『本』

わたしたちはみんなによまれたいの
ねぇこの、虹をひらいてごらんよ
  
ねぇそんなにないてちゃ
おうちへかえれないよ
ほらみてごらんよ
きれいなにじが
あんなにくっきり

ねぇそんなにないてちゃ
にじがくもにかくれちゃう
てをかざしてごらん
みあげてごらん
きれいなにじがみえるよ

あんなにとおくにあるのに
あんなにたかいところにあるのに
なのにあんなにくっきり



  『ギターと北キツネ』

彼はもうかえってこない
あれから17年
彼のギターが蔵のなかで目覚めること
その白いおひげは北風でふるえていた
彼はかえってくるだろうか
春夏の原野で遊ぶこの時期
彼はでももうかえってこない


  『作家を志したものが言ったおはなし』

あのときとても大きな粒でないたのだ
でも今はなきたくない
かなしみはとてもおおきなものだが
あのとき落ちたものは
それは勇気という名
そして雨が降った
俺はそのまま
とても大切なことばを知った
山はそのまま流れ
谷は深くて短い
川は滝の心を知り
海のこころを知る
ただ一人のにんげんが生まれない
その大きな 大きな物
ただ 無いものが 欲しい


 『エドガー・アラン・ポー』

私の述べたことは真実である
皆は私を誇大妄想という
 「ユリーカ」
この世界は箱入りの大時計みたいなものさ
皆は私の直観に比べたら大洋に浮かぶ泡に等しい
 「ユリーカ」
でも皆は私を自己欺瞞な男だという
でもお前は私の確信を信じるかね
   

  『スプリット・ブレイン』

一個の私には二人の私がいる
一人は科学者 一人は芸術家
一人の私が林檎の絵を描くと
もう一人の私はそれを見てオレンジという
私が憂いに沈んでいるっていうのに
こいつらときたら笑っている
たわいもないことにいつも喧嘩ばかり
心はいつもとっかえひっかえ
私達はへつらいと偽りの中で
是か非かを 論争している


  『・リンドバーグ』

意気地がないねえ、君がどれほどまで過去において悲境の地にあったにせよ結局は過去のこと。まるで君は過去の屍を掘り起こしているのも同じことだ。
それよりどうだい、この海洋の美しさ、なんと大空の澄んでいることか、一点の太陽、過去にどんなことがあったにせよ、今僕らは大空に浮かぶ塵にも等しく、
……………そうさ、この先何が起ころうとも、この瞬間に生きていることでたくさんだ!



  『屈折した詩人がうたったうた』


 これで終わりだ わが兄弟よ
 これで終わりだ わが友よ

僕は何ひとつ持たず 砂漠の上をさまよっている
風に吹かれ 灼熱の陽に照らされ
たよるものは何ひとつない
昼と夜とが僕を突き抜け 月光が僕を照らす
コップのなかの砂漠では 手を伸ばしても何もつかめぬのだ

 これで終わりだ わが兄弟よ
 これで終わりだ わが友よ

コップの中が 全身の血で満ちぬかきり
僕はこの砂漠から逃れることは出来ない

 これで終わりだ わが兄弟よ
 これで終わりだ わが友よ

あぁ、僕に石を投げつけ、唾を吐きかけるつもりだな
あぁ、僕を愛するふりをして
   陰で罵倒罵声を浴びせているのだろう
あぁ、僕を愛するふりをして
   このままのたれ死にさせるつもりだな
あぁ、ここから逃げ出さなければ
あぁ、誰か僕を助けてくれ

 これで終わりだ わが兄弟よ
 これで終わりだ わが友よ

 あぁ、これで終わりだ


・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・



***

 二〇一三・四・二五 

    記


真夜中の迷い道を徒歩
針射す真っ赤な街の夕
君の瞳に目覚めた空が
耳にひそめる少年少女
ありふれた夢中を抱え
むせる咳を刻みながら
にぎやかな文字盤の目
分秒針を重ね合わせた
その五線譜を綴るのだ
歩む両手を互い握りしめ
蒸せた日差しのただ中を
太陽はほころんでいた。

円な瞳を耀かせながら
雲は逆さに流れていた
いつしか君とは逆に
流れていたのだった
だから、さよならとは邂逅だ
だから、いつか君の元へ贈る。

たどり着けるだろうか
この背中を縫ってく
かぜを
君の閾を通り抜けて
かぜは
歩く少年少女たちだ
傷つく
こころの燃えかすを
扉から
みえる玄関の明かり
眩い光
沈黙の
帷の
その光の風を煽りつ
むせ込んだ気管支炎
その背中はベッドに
横たわり心傷を
負いながらも君は
みなぎらせる魂を
その嘆く骨の声を
人々は救っていく
人々は救っていく

天地を繋ぐ滑車を
引き上げては降し
持ち上げては降し
魂は少し軽くなる
引きながら押して
押して引きながら
大地を這いながら
声の吐く白い息
聞こえぬ声の
無言の中の
聞こえぬ声の






                                                         .

文学極道

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