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作品 - 20161018_650_9191p

  • [佳]  彼方 - 牧野クズハ  (2016-10)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


彼方

  牧野クズハ



水のない河を
素足のまま
渡っていく
投げられた小石
のように水面を切って
小さい波を
残していく
爪が割れた右足が
捨てられた釣り糸に
絡まり縺れて
水底へ沈んでいく
ゆっくりと手招きする向こう岸
をぼんやりと見ながら
その時私は魚になって
苦しい苦しい
という言葉を
見つける

 
私を掬い上げた
舳先のない船は
暗闇の中に浮かぶ
工場群の照明に
点された仄暗い道標
に沿って進んでいく
錨を下ろしたまま
がりがりと河底を削って
流れの速い河から
黒く死んだ海へと流れ出る
エンジンのない船は
潮に逆らい暗礁に
乗り上げて燃え上がる
船員のいない船は
色を奪われた煙を上げて
黙したまま呻き続ける
燃えているのは私の体
いつの間にか舳先と化していた


焦げた船の骸たちは
見えない波に揺られて
砂浜に打ち上げられ
燻ぶり続ける
どこからか子供たちが
やって来て私を持ち上げ
はしゃぎながら駆けていく
夜の砂浜で拾った
貝殻や小石、ロープや私を
積み上げては崩し
積み上げては崩し
子供たちは
きゃっきゃっと笑う
その時舳先は初めて
向こう岸の明るさを
盗み見てしまった

文学極道

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