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作品 - 20161001_829_9148p

  • [優]  時計 - 山田太郎  (2016-10)

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時計

  山田太郎

七分、という時間はないのよ
電車を乗り継ぐ時間があるだけ
四秒、という時間はないの
日傘をひらく時間があるだけだわ
と女はいった

それから快速に身をゆだね
見なれぬ街で
深々と黒い、じぶんの井戸に
身を投げる

三十分、などというものはないのよ
熱いお茶が冷めるあいだがあるだけ
五分、などというものもないのよ
汗がひくあいだがあるだけ
と別の女はいった

そのあとで、猫舌の喉をうるおし
ほつれた鬢がかわく

匂いを感じる時間は一瞬
頬を打たれる時間も一瞬
とまた別の女はいった

そのあとわたしに還った本当のわたしが夕飯をつくり
本当のわたしから抜け出た本当のわたしが
つぎの日 電話をかける

時間の長さを忘れさせるのは
時間だけだわ と女はいった
かつて花と花をつなぐのは風だった
風になろうとした花は
時間につながれるしかなかったのか

便りには
空はいつも時計だったと書かれていた
便りには
川はいつも時計だったと書かれていた
便りには
あなたはいつも時計だったと書かれていた

文学極道

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