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作品 - 20161001_803_9144p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


或る生活

  西木修

命有る所に、生活があった。
それは
台所の三角コーナー、
屠殺場
そして
ぬるくなったビールの中、
世界の果て


命有る所に、生活があった。
それは
カンガルーの子袋、
剥がれた天ぷら衣
そして
老人の目、
宇宙飛行士のヘルメット


命有る所に、生活があった。
それは
寂れたバス停、
生鮮食品のビニール袋
そして
ブラウン管のアナログ放送、
伝書鳩


命有る所に、生活があった。
それは
期限が迫る保健所と
不甲斐ない少年の情緒
そして、
盗まれたビニール傘と
中東に降る
クラスター爆弾の子ども


命有る所に、生活があった。
それは
母親の胎内、
スプーン一杯の蜂の巣
そして、
百を超える言霊たちと
公園の砂場に
置き去りにされた泥団子たち


最期は、
終わりなき快楽と信仰の、
(いえ、いつかは終わるのだろう)
交錯と、連鎖、そして、鮮血が
チェス盤の上で
織り成すもの全てを
幾度もなく、
掠め取っていった。


人間の生活とは普く
永遠に釣り合わぬ
鈍重な秤の上か


(またはかつての僧侶のように)
(唯一、その足と眼の均衡さに驚くか)


命有る所に生活がある。

文学極道

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