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作品 - 20160926_540_9126p

  • [優]  水鏡 - 桐ヶ谷忍  (2016-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


水鏡

  桐ヶ谷忍

梅雨の晴れ間の夕暮れ
灰色の路地に
茜色の空を映した大きな水溜り

跨げずに立ち止まると
水溜りの中に鳥がいた
電線に止まっているのが映されている
羽を広げては閉じていて
飛ぶのか飛ばないのか
飛べないのか
焦れながら見ていてふと気が付く

眉間に力を入れている
慌てて力を抜く
眉間にシワを寄せていたら、取れなくなってしまう
私が子供の頃から
喧嘩ばかりしていた両親の眉間は
鬼のようにくっきりとシワが刻まれている
あんな風にはなりたくない
いいやなるものかと
私は微笑んでいるよう心掛けている

そうしてまた気が付く
今日も一日、シワが寄らないように寄らないように
のっぺりと笑って過ごした事を
昨日も一週間前も十年前も
のっぺりと
顔に手を遣る

自分がどんな顔をしているのか分からない
水溜りに向かって顔を突き出してみた
真っ黒な顔だった
シワどころか目も鼻も口もない

真っ黒に塗り潰された顔だった

逆光だからだ
橙が強すぎるせいだ、だから
その時、鳥が私の顔を突っ切って行った
飛べたのか
なぜだか悔しくて情けなくて
こわくて
衝動的にヒールで思いっきり水鏡を割った

飛び散ったひとつひとつの飛沫に
私の靴の内側に
黒い顔が映っている
私の
私の顔が、顔は、

悲鳴をこらえて走った

頭上を何羽も鳥が飛び回っている

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