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作品 - 20160906_364_9079p

  • [佳]   - 西木修  (2016-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  西木修

猫の尻を追いかけ裏へゆく
蚊をぱん、と潰して表へゆく
我々はその繰り返しで生きている
私はこの矛盾を、
この逆説を、
このシニスムを、抱き締めている


街は大きく欠伸をして
我々を見ている
コロッケが
見事な狐色に揚がると、
私はすべてを許す気になる
街は大きく口を開けて、
ひたすらに唾を撒き散らす


これを食べたいか、と
私は街に聞く。
街は大きく頷いて、
私はどうしてもか、と
俯むいた。


街は何度も頷き続け、
鋭い犬歯が
ヒッソリ口の中から覗いている。


お前は表か、それとも裏街か


……


「(o・mo・te)」


街は、声は出さず、
やっぱり牙をのぞかせながら
そう口を動かした。
それから、ニッと
街は三日月のように笑う。


私がコロッケを手の上にのせて、
(時が経ち、微かに温かいだけだ)
街の方へ差し出すと、
街はガブリと私の両手ごと噛み付いた。
血がぽととと、とたれている
涙もぽととと、地に落ちる


五歳の私は痛くて
ほろろ、と泣き続け、
二十二歳になって、
大人になった
未だに私は、
街の口から両手を
引き抜くことができない。


あの街 / この街と、
私の街

文学極道

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