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作品 - 20160902_222_9069p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


岩手七号

  山田太郎

幽霊として生まれ
幽霊として死んでいくこのわたしは
生きているあいだは
すこし塩けのある水を湛えた
ちいさな
水槽にすぎなかった。

(メダカくらいは泳いでいた 
(かもしれない。

幽霊であるわたしにも
コトコト動く心臓と
巡る青い血があり
健気に動く筋肉と腱があった。
すこしも 
役に立たなかったが
並の下、程度の脳みそも完備されていた。

問題は
それ以外に 
なにもなかったことだ。

ある ── 空腹の夕べ
手のひらをみつめて
何げに ソラをもちあげてみた。
なぁ〜んちゃって
と 肩をすくめた姿勢で 浮かしてみた。
ふわっと
手のひらに血がきざし 血流のしびれがきざした。
錯覚だろうか。
なにかに触れている。
これが あの、 ソラと呼ぶものか。
嘘のように軽々と「ソラ」とつぶやき
信者のように見上げてみる。
まるでお尻の なめらかさだ。
かなしいかな
扇風機の風で翔んでいく。
ほんとうは ないので
見送って
泳がせて いた。

手のひらを眺めていると
トツゼン
セックスがほしくなった。

テレビで
セックスはいい セックスはいいねと
女優やタレントに 笑顔で
叫んでいるのは人工肛門手術をした後の渡哲也だ。
不思議な人もいるものだ。

わたしのセックスライフにも、
相手が必要だ。
そのお相手はいまテーブルの白い皿に載っている。
あれでも昔は山田さち子という名前があったのだ。
それがいまはなぜか岩手七号になっている。

わたしの手のひらにあわせて
身繕いをしている
薄紅の秋の実。
わはは、ざまあみろ。
福山雅治、 
おまえの吹石一恵より丸いぞ。
とカラ威張りしていると──。
 いや、だめよ、
 そんなことはだめ、
 まさか、そんな、コトは。
 いくらなんでも
 それは神を冒とくしている。
 スカートめくりじゃあるまいし、
 半分に切るなんて。
岩手七号がいやいやをした。
でも切らなきゃはじまらないだろ。
吉永小百合をみろ、小百合だって
やってるんだ、
まして幽霊がリンゴとやってどこに
不都合があるのだ。

文学極道

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