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作品 - 20160901_125_9063p

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書くことは思い出ならずや

  田中恭平


 
Salem、カナンの地の都サレム、オレゴン州州都セイレム、魔女を焼いたマサチューセッツの港街セーレム
きみの訛ったSalemは、それらがまるでひかりと濁りの調和とし佇んでいるSalem
それは歪みつつカッチリ響く根音5度の和音─パワーコードの残響、確かに俺はそこを知っていて、わかっているような気さえした。
24度の寝室、異袋のなか、効きのすっかり去った眠剤と、オロナミンCの甘さがとろんと、恋をするとき。


十代の苦悩は重大だが、重罪ではないだろう、外でラッキー・ストライクを喫っていると、彼らは歩いているが、歩かされているだけ、
ほっとかれているだけ、なんだと29歳の男の体のなか、老婆を宿している、俺はわかっていた。この体は健全であって、つまりどうかしているんだろう、
きみは形あるもので物語っているのですか? きみに高学歴がなくてよかったね。俺もひとしく馬鹿だから、この国ではそれで過ちが少ないんだろう。


堕ちることは上昇だと考えたら、敬虔な死んだ女は水に沈むのか、疑問を持った。敬虔な死んだ女が語る言葉が聞きたいけど、郊外のファミレス、
コーヒーを口にし、煙草を吹かし、299円のドリアを分けあいながら、死んだ人間と語る、無理も承知だけど、俺は今も丁寧、死んでいっていて、
今年の正月には「今を生きる」と大書したのにね。でも死んでいくことそれは、なんでこんな面白いんだろう。ダメになった筋肉を無理に動かすのは楽しいよ。


従っているものに従ったけれど、私に従うものがいない、望んで叱られたいなんてマゾフィスティックだけど、楽しいこともあるよ。
サウナの高温の鉄棒を、水で濡らした雑巾で、ていねい、ふきとる。雑巾はたちまち焼け焦げサウナに異臭がたちこめても、裸の男らは
年始から今までつづくテレビのていたらく芸能ニュースに、必死くいいってる。
真黒の雑巾をゴミ箱に投げ込んだら、向こうのレイプ事件もこっちのこころの傷痛も忘れたいけど、物を握るたび顔をしかめた夏でした。
白桃色の女が川のながれに馴染んでいるのは、製紙工場の匂いのせいなんだろう、と、ぼうっとした秋のはじまり。


骨が成長すると俺は痛くて堪らなかったけど、痛くないと生きてる気もしなくなった馬鹿になってしまった。
望んでいたダディはいつかダッドだったけれど、今では電気保安事務所を構えコンビニの点検業務にルーズいそしんでいる。
セ・ラ・ヴィ。
きみに勇気があれば希望なんていらない、種があれば、植物は勝手、生えるようなもので。
製紙工場の匂いの手前、黒い川ながれ、月が映る。
現代この月だって荒らすことができて、アメリカはかつて星条旗を立てたけど、時という手術代の上できみの心臓からガラス片すべてとりのぞくに
きみ自身でやらなくちゃいけないのなら、慈悲をメスとして伝えたい。
コホン、えー、この手術はたいへんに難しい、しかし、きみは正しい、きみは正しかった。親切はとき、人を活かし、ころす。

寝室の窓を開ければ、森の闇が広がっている。
意識しつつ存在しないようにできないだろうか。
そして存在しつつ意識しないということはできないか。


 Love and Sympathy  2016.8.30(火)
 

文学極道

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