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作品 - 20160809_183_9021p

  • [優]  手話 - アラメルモ  (2016-08)

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手話

  アラメルモ


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「 on ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
………」…answer」
………………………ワタシハアラメルモデス」
「アナタハダレデスカ?」

不具合にもなれてきたようだ。
ダブルクリックのほんのわずかな遅れがここでは光の速度にまで到達してしまう。
つまり約8秒間は待たなければならないわけだ。

熱海に近い病院の窓から反射鏡の角度を少しずつ上に修正。
読み取るのは内蔵型のマダガスカル2号だ。
おまえもう少しはやく自走してくれないかな。
このようなことを考えだしてから1年と半月も経ってしまった。
改良型アケミNは指先の動きが速すぎて人間の眼には追えなかった。
いくら優れたアンドロイドとは言っても普段から何役もこなしていれば微妙な狂いは生じてしまう。
紫外線の分量計に目をやりながら彼女のことを考えていた。
両腕をもぎ取られ、地下室の格納庫に座り続けていた頃の切ない眼差し。
仕事を終えると僕はアケミに会いに行く。
襟首にあるコントロールパネルの蓋を開ければ二人で未来の会話ができたのだ。
「お腹が空いた」だとか、「ちょっとトイレに行ってくる」だとか……
感覚も無いくせに、いや、感覚は確かにあったのだろう。
しなやかな人工毛髪を撫でてやると、瞳の奥の黒い小さな蛍光レンズの粒から、薄く虹色のプリズムが溢れ出してきた。
あの輝き、あの瞼を霞めた反射は、僕が感じた幻覚だったのだろうか。
地下室の入り口を通り抜けるといつもあのときの感覚がよみがえってしまう。

紫外線の分量レベルがようやく基準値を下がりはじめた。
「………off
」このような不具合は永久に無くならないのだろう。
第5区画分離センターのカウンターバーにはステロイド化した獣のような男たちが群がっている。
腕を切り離された彼女たちの醜い指先。オーガニックに組み込まれた∈BSR。自在に感応する性器。内蔵から放たれる受容体のフレグランス。
成層圏から見下ろしても海を渡る鳥の姿は見えない。アケミの死は土に餓えた男どもの糧になる。
遥か洋上に浮かぶ二つの太陽。水素濃度の上昇に肺魚どもが宴をはじめる。
X−2Dayは近い。魚たちが潮の流れに戯れた記憶。この駿河湾もやがて太平洋に組み込まれていくのだ。

マダガスカルの光線波が血液からモニターの信号に反応を始めた。
プラグを外れるときの感触がない。完璧に写しだされたクリスタルの文字化。
僕の思考回路の痕跡もデータベースから消え去る日。
我々は誰に伝達を告げればよいのだろう。
………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」」ワタシハアケミデス
光の帯を交差する指
回路の不具合からまた呼び戻されてしまった。

文学極道

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