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作品 - 20160711_689_8950p

  • [優]   - zero  (2016-07)

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  zero

今頭から離れなくなっているのは雲の巡りの歌。岩だらけの高山の頂を擦過して暗い鉱物に脈動を贈られ、波の荒い大海の巨大な表情でひずんだ音響により膨張し、ありふれた市街地の上空を闊歩して人々それぞれの生活の雑音を精査している。青空の青い伴奏に沿って雲の彫刻的な歌が映像として記譜される。

今頭から離れなくなっているのは事務所に幾台となく置いてあるパソコンの歌。演算処理の歌が厳しく研ぎ澄まされるとき、叩かれるキーボードの歌は散り散りに頭脳を経めぐり、明滅するLEDの歌は川のように悠々と、絶え間ない通信の歌は重低音を維持する。それらの上方の空の広がりのように、二進法の歌は低く流れる。

今頭から離れなくなっているのは机上に置かれた静物の歌。静寂が静物の表面で変形しては生々しい呻きになる。真空が静物の内面で破裂してはういうしい笑い声になる。室内の白光が静物に注ぎ込んでは群衆のざわめきとなる。この牛の頭骨はいったいいくばくの人間の声を気づかれることなく録音してしまったのか。

今頭から離れなくなっているのは限りなく遠くへ逝ってしまったかつての歌。すべて新しく降ってくる歌は実はかつても一度流れた歌で、それが限りなく大きな輪を循環してくるのである。輪廻転生が古い歌を新しい歌へとつなぎ、歌の死生の度に繰り返される激痛が、脈拍として歴史を通じて太いリズムを維持する。

文学極道

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