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作品 - 20160701_320_8924p

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 モザイクの首

  山田太郎

狐の嫁入りの昼下がり。
ゴミ置き場があるコンビニ裏の空き地は雜草がのび放題で奧の林にやぶれ幟がひとつ、小さな祠の所在を示してゐた。
みえぬものはみどりの奧に隱れてゐる。
明るい空からぬるい雨が降り出すと。その祠のわきから人間のやうな顏をした白い首が浮かび上がつた。
黄色い闇をまさぐりかきわけてあらはれた稻荷の狐のやうな不吉な清潔さで、ほんのり經血の混じつた漆喰の白壁のやうなお粉をつけてゐる。それがいまにも崩れさうに。高頬にまとはりついて。落ちさうで落ちない。生き靈のやうな年増の藝妓のやうなつくり笑ひを浮かべてぬめつと浮いてゐる。果実の黒い種のやうな眼はどこも見てゐない。

なんだ、おまへ、妖怪か!

おのらが呼んだぁだよ。
天を仰いで紅(べに)を震はせる首。

狐首はあごを突き出して喉を鳴らすと眞つ赤な鬼燈の実をぽつと吐き出した。落ちると地面がまあるくぱああと朱に染まり。波紋が廣がる。

なにすんだよ、おい、バケモノ。

箒を握り締め、
境界のフェンスを跳び越えて近づくと。
すり硝子のやうな身體があるのだがモザイクがかかつてゐる。
遠目にはわからなかつたのだ。
短形の色細工の集合が寄せ合つてゐるにすぎない。
箒ではたくとよろける。手が空をつかみ、
あとずさりすると宙に浮かぶ首がまたそこでへらつと笑つてゐる。
おまへ。

わらはは鐵と石で木のいのちを切り裂き
千年の緑と水のえにしを屠り 
都へいたる血の川を街道と名附けた
 おのらに
マサカリひとつでこの地に種を蕃殖させた
わらはが撃てるかへ

せらせらとお粉の崩落がはじまつた。髮の焦げるやうな匂ひがして閉ぢた眉間に吐き氣が兆した。ばあああと鳥の飛び立つ音がする。目をひらく。
わたしは祠のわきに作られた國道24號線の奈良2區選出候補國政選舉掲示板をみてゐた。日の丸を背に頬骨の高い女が笑つてゐる。

雨はもう降つてゐなかつた。
飮み干したコーヒー罐をぎゆううと押し潰し、穴のあいたゴミ箱へ投げた。やつぱり命中しなかつた。

文学極道

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