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作品 - 20160604_183_8864p

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Give me chocolate

  ゼッケン

天神の親不孝通り交番に拾った財布を届けた
警官はおれに名前と住所を聞いた
昼までまだ間がある午前の中ほどの均一な白日の下で
繁華街は無防備に寝そべっていた
生ごみの匂いがしみ込んだアスファルトの上を
数人の予備校生が歩いている
おれは予備校生ではなかったが、しかし、路地を歩いて黒革の財布を拾ったのだった
警官は後で謝礼があるかもしれないからと言った
けっこうですと手を振って交番を出ようとしたおれの進路を男が塞いで言った

それは私の財布です

警官は男の名前を聞き、男の顔と運転免許証の写真を見比べてから男に財布を渡した
おれは交番から出たかったが、狭い戸口で男の身体が邪魔だった
あなたが拾ってくれたんですね、助かりました、ほんとうです、助かりました、大金なんです、これは
おれは財布には50枚ぐらい入っていただろうと思った、謝礼が1割なら5枚をもらえるところを
おれは事前ということで1枚しか抜かなかった、落とし主が現れるかどうか分からなかったからだ
人間は利益なら確実な方を選ぶと行動経済学は教えている、それは脳の働きだと脳科学者が胸を張り、おれは権威に逆らえなかった、後で多くの利益を不確かな確率で得るよりも100%の1枚をおれは拾った財布から盗んだ
男がおれの進路を塞いだまま、財布の中身を数え始めたのを見ておれは男を憎んだ
口では礼を言いながら、男はおれを逃がすつもりはないのだ、おれの顔を見ただけでお前は盗んだと決めつけている、ただ、その枚数をいま確認しているだけだ
おれは1枚しか抜いていない、だが、男は3枚足りないと言った
おれは男の罠にかかった、1枚しか抜いていないのにおれは3枚返せと言われている
男はおれの良心に凶悪な鉤爪をかけて後ろに曳き倒そうとしている
あのう、すみません、3枚足りません、と
男は一度目を警官に言ったが、二度目はおれの目を見て言った
おれの後ろには警官が立っている。

はい、こちら親不孝通り交番です、分かりました、すぐに行きます

警官は鳴っていない電話から受話器を取り、話し、戻して言った
私はもう行かねばなりません、こうしてはどうですか、 私が1枚、あなたが1枚、困っているこの人に寄付するというのは

警官は付け加えた、三方一両損、というわけでもありませんが

1枚でも足りないとこのお金は困るんです! 叫ぶように言った男の視線から警官は顔を背けた
その事情、知らねーし
おれは警官を味方につける好機を得た
そうですよ、あなた、私たちがあなたのお金を盗んだとでも言いたいんですか?
おれと警官が心理的に結託したのを感じて男はなりふりかまわず言った
何が三方一両損だよ、あんたたちは盗んだ金を返すだけで損してないじゃん!
おれは警官に言った、あんた、2枚抜いたの? 警官は首を横に振った
おれは男を殴った、強欲だな、きさま! 財布を拾って届けた人間からカネを巻き上げようとしたんだ!
男はおれの足元にすがりつく、それでもまだほんとうに1枚足りないのです
まだ言うかよ!? おれは男の胸を正面から蹴り倒し、ジーンズのポケットからくしゃくしゃになった抜いた1枚を出して仰向けに倒れた男の上に降らす
天井を惨めに見つめる男は目尻に悔し涙を貯めていた、警官は銃を抜いていた
警官は銃を振っておれに交番から出ていっていいことを知らせた
おれはすなおに従った、最後にちらりと背後を一瞥した、交番の床で警官が男に馬乗りになっていた、つきつけられた銃口は警官の背中で遮られて見えなかった
おれは昼前の繁華街を予備校生たちの後ろについて歩いていた

文学極道

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