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作品 - 20160409_813_8751p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#14 (B 五十一〜百)

  田中恭平



五十一

四月一日 深夜三時
コンビニエンストアへひとり歩いていき
ドリアを買ってチンしてもらい 食べず
布団をドリアのようにあたたかくして睡った


五十二

さくらまじ 麗らか勤めへ
父母にいただいたこの体は
動き汗をかくことを嬉しがる
しかし生まれ落ちたときの衝撃で のち死ぬ


五十三

万愚節は要らない ほんとを見たことがない
ほんとを聞いたことがない
ほんとを味わった あの夜も
いま あなたのなか 朽ちた家の瓦になっている


五十四

山葵田の鐘に日当たる四月かな
分け入る 分け入って 脳が変色し
さっき食べたものは何
私はこの月に埋葬されるだろう


五十五

誰も椿の背景は暗いといわず
鬼子母神の御堂のなか
母胎回帰願望は冷えていく
ああ 風わびしくもあたたかい


五十六

チューリップの目が本気
その目の瞳孔をじっと見つめた
気分が悪くなり
アスピリン、カフェインを含み煙草を喫って整えた


五十七

さくらの枝を折り盗む花泥棒が
私のパートナーを折ってしまった
パートナーの名に「花」があったから
それからはずっとあなたの体を撫でつづけた


五十八

梨の花ながめていると なにか忘れた
菜の花ながめていなくとも なにか忘れている
と思い出して
テレヴィが欠伸を止めるなら上唇を舐めろと伝えていた


五十九

つくづく つくづくし
つくづく つくづくし
半分透明になった父が
夜 泣いているような気がして睡らなかった


六十

花疲れしている路を歩く
疲れた路へ しずみこんでいってしまった
夢の上に起きた
机の上にぬるい缶コーヒーがあった


六十一

束ねたコピー用紙はすべて詩作品
私のセンテンス・スプリング
 書き殴られたセンテンス
 なんとかやってたブルー・スプリング


六十二

さくらが今年も自刃している
するとゴトーがついに現れた
ああ 後藤さんか
借りた煙草は必ず返します


六十三

日を点火 月へ打ち水
こころ大きくなり
しかしチラチラを憎んでいる チラチラは
服薬に於ける副作用、眼球運動の誤作動をそう呼んでいる


六十四

穢土鈴木がテレヴィに映る
彼はほんとうは ウド鈴木というが
ウド鈴木のウドは独活なのか
そんなことよりよい風の吹く


六十五

うまごやし きみのたましいこゆるまで
うまごやし きみのたましいこゆるまで
摘んで ネックレスを編んであげる
きみの欠損した部分へかけてあげる


六十六

日は白い
太陽は赤い
むかし 私は混同し
日を赤く画いてしまった


六十七

西行は行きつづけている 西へ
ノイズを消そうと 私は
バッハのレコードから針を上げ 泣いてしまった 
西行は行きつづけている 西へ


六十八

巷に風のひかり
由比にゆすら しろさのさかり
透明 雀の子へ力込め
放て 世界の中心へ


六十九

清水の手前に濁火
うららか じっと見つめているのは
障子の笹の影
ささい 生死の影


七十

核の子の誕生日
涅槃雪ふる
咳をしなくてもひとり
荒がる声もとおくなった


七十一

接ぎ木見ていた
接ぎ木を見ているのは不安ゆえ
鬱を受け入れられない自衛隊員が
ヘリを操縦している春の終わり


七十二

はなまつり 甘茶年々甘くなる
古い体をじっと感じている
風呂は年々熱く 出ては
星を眺める男になった


七十三

懺悔は平和の水面か
いでて咲くか 平穏の花
燕は知るか 雁は知るか
知っていて 来たり 帰ったりするのか


七十四

辛夷の白い花咲く
今日私はエゴを傷つけた
ひとの為動き ときに泣け
できなければ死んでしまえ


七十五

のどか 喉から手が出るほどほしい
すべての電子音 止め
でも電子音の一音の 純なこころもちで
生きていってもいい


七十六

南無馬頭観世音と猫の塚に唱える 
陽炎が脳の内
昼の月はまた 星の内
手に入らないものの比喩で


七十七

何も貫く矛
何も通さない盾
矛は盾を貫き、盾は矛を通さなかった
なんの矛盾もない


七十八

案山子はいないか
いるわけないやろ 長兵衛の家や
そうか 長兵衛はどうだ
花のように死んだわ


七十九

昨日は今日で明日だ
それらは一として人生だ
水平運動に抗うなら 垂直すること
脚立の上で背伸びをした


八十

この車は動かない たましいが抜けているから
この風車はまわらない たましいが抜けているから
あの肩車はもうできない たましいが抜けているから
部屋をぐるり見わたせば たましいの抜けたものばかりだ


八十一

げんげだに げんげ(※)している

【げんげ】
嚥下できず吐き戻すこと


八十二

線路を歩く 木瓜の花に
歩いていくたびに ほうけていくよう
かつて理屈を武器にしていた口元
いま 明るい唄をうたっている


八十三

義経がギリギリとまつりの中心で唸る
啄木忌
海の市には何が売られているか
そもそも海市へはどうして行ける


八十四

げんこつ山の狸さん
おっぱい飲んで 寝んねして
次の日の朝
避けきれなかった車に轢かれて死んでしまった


八十五

月も知っているおいらの意気地
その月 朧んで
とても静かに
額のあたりから草の匂いでいっぱいだ


八十六

透明な
その雨ふる
晴れ間のような力で
時という壁へ 自由を書き留めたい


八十七

ローリンしていると甘いので
日がな一日
ローリンしていると冷たくなった
もうローリンはときどきにしておこう


八十八

もうすぐ二十九歳になるけれど
なりたいものが
なにもないことを
新しい自慢としていつまでも動こう


八十九

精神世界の入り口は
そこらへんに沢山ある うんざりするほど
でも出口はないんだ
グルさえ知らないんだって聞いた


九十

さびしいと
感じない為に
十時路で悪魔に魂を売ったのは
世田谷の 春の夜更けでした


九十一

春を売っている
みんな みんな みんな
遺った季節を眺めながら
黒い箸をタクアンに突き立てる!


九十二

自分の愚かな考えを
通す為に
駄目なものを良いと言っていたけれど
わかってしまった 生きるべき人間とそうでない人間と


九十三

カーテンを開き
夜の明るさを確かめると
夜の暗さがわかった
間違っているんだ


九十四

吠えるな
馬鹿
俺は鹿じゃなくて人だ
神のナントカでもなんでもない


九十五

コップに底はある
コップの底に底はない
日 一枚を切符とし
なにかがわからなくなった散策でした


九十六

赦されつづけるということは
けして赦されはしない ということだから
曇った夜のそらへやっと星を見つけ
小さくお祈りをした


九十七

黄色い戦争は今毎年の花粉症の比喩
ララ物資 私はあたたかいコーヒーを飲む
与えられるだけで良かった
勝ちとる必要はなかった


九十八

四月某日は 四月にない
四月某日は いろいろなところから
拾ってきた集積の一日
勿論 死がたっぷりと含まれている


九十九

有名になりたいときもあった
コカ・コーラのように
セブン・スターのボックスのように
この国中に私は供給され 空っぽになって良かった




やはり野に置け蓮華草
日本人なのにブルーズを弾いている
清掃員なのに詩を書いている
休日の朝が とてもまぶしい


 

文学極道

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