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作品 - 20160321_380_8708p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


#14 (A 一〜五十)

  田中恭平

 


眠りは 昏睡にとどかなかった
眠り のしたを波が揺れていた
その波は意識のように思われる
日が射すと投げ出した腕の下 波が枯れていた




アスピリン の響きは宝石名のよう
しんじつアスピリンは宝石であった
それは確か三時間前
いまだ 頭の中 水母は心臓を腫らしてのたまっている




船 というからには船長がいるが
神 とは船長なのか船大工なのか
人類のエゴは 時間という水平運動のさいはて
私をどこへいざなう




蒸気は胸の内より出て気層の下へ
見えないけれど 感じることはできた
言葉が論理にならないようつとめようと
情 を挿入するが とき 情は冬の木のように冷たい




私は他者である とランボーは書いた
あなたは私である と書く それは手紙に
手紙に熱はない しかし字には熱がある
これは錯覚に過ぎないが 手紙は灰になった




あなたにはわからないだろうが
私にだってわからない 私が
怪物になりたいのか 人間になりたいのか
袋一杯の錠剤を受け取るとき この問題をいつも忘れている




頭中に頭痛を注入するために ピースを喫っているのでなかった
頭中に宇宙を注入するために 書籍を読んでいるのでなかった
胸の内に 胸の内に 疑われ ついに燃され
痛みも 知識も 蒸気として私をぐんぐん動かす




バリのついていたこころはどこへ
今朝 まだ水はぬくんではおらず 旅人はかえらない
青空のうつくしさは 何もないようにしてしまう
私は内省を孕み なにもできない




神は深手のまま 本当の神になれば
人は傷つき 本当の人になるのではない
無垢は生成をやめず 雨に苔は息吹く
あなたの中 無垢はあたらしい望みのようにきらめく




無垢に姿はなく だから生成とも書かれるが
私は生成をやめたいことも 散髪代がかさむから
この春の下 命を少しずつ譲ってやりながら
こんな素晴らしい世界を送っていこう


十一

ミンザイを含んで少音量でアコースティックの
ニール・ヤングを流す この音源にしんじつ
マリファナ臭さも アルコール臭さだってないこと
私は色々摂り過ぎてしまい 本当にほしいものが知れない


十二

犬は言った 弥勒はまだ還らんよ
僕は僕に言った 旅人帰らず は
本当に? 旅人帰れず、ということもある
その僕は言った 弥勒は犬とお前に言わせているな


十三

犬は言った 弥勒はまだ還らんよ
僕は僕に言った こっちの寿命が勝手伸びるから
会えるかも知れないさ、するとその僕は
生きる時間というものと命が混ざるのはお前の心じゃない


十四

風の味を嗜んでいると 夜が明けた
風を嗜んでいたから 私は風であった
不確かな変身願望は 雨に打たれ
一変 今朝の仕事へ


十五

雨は雨に濡れ つまり水は水に濡れている
あなたはあなたを語り あなたとなるが
花は
万感に濡れつつ咲き 語ることはない


十六

ロックはロールすることをやめて
なお踊ろうとするのかは
きみの意志だというから哀しい
命を削り踊りつづけるあなたは 哀しいほどうつくしい


十七

この不治の病が治ったら
頼るものがないな 薬モグモグ
紙一重に生きることを止めても
ナイフの刃先を歩いているように 薬モグモグ


十八

夢を育てようと 現実を与えつづけた
水差しの現実が尽きて 夢は風にふるえている
夏は遠すぎる
私は信じようとする 無意識のカキクダシも現実の内と


十九

妹へ
お兄ちゃんの脳は委縮といって、段々小さくなっていくけど
その分文章を書いて 計算して脳を鍛えるから大丈夫だ
お前の好きなスリーピオみたいになるからね 手紙ありがと


二十




白い腕を皿の上にのせ耽美派がついにカンニバルな春


二十一

もう解けない問題を 解けなくてもいいのに
学校でテストを受けている夢を見た
学校から 赦されたくて
その力で 私は路傍で暮らすことにもなった


二十二

ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド
ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド
私は農耕民族で 今朝は白米ごはんに味噌汁、卵が格別
ブレイクスルー トゥ ジ アザ―サイド


二十三

きみは私の故郷
きみはかつて東京に住んでいた私の故郷
きみは天使が囲う私の故郷 その筆致のうつくしさ
きみは私の故郷で やっと出会えた私の故郷


二十四

歯痛激しく ミンザイも効かない深夜二時
明日 仕事がないことはよいこと
時給八百円で四時間清掃する仕事がないことはよいこと
私は正しく騙されているし、自覚している


二十五

アイリーン
おまえはインスピレーションの泉を沸かす
私にEm7thのコードをアルペジオで弾かす
アイリーン おまえは一体誰・・・・・・?


二十六

南無きみ きみに帰依する
南無きみ 余暇時間は四時間しかなくても
南無きみ 携帯電話は怖くて開けないけれど
南無きみ


二十七

月の香りだと思ったら
草蒸れて 発する草の香りで
そもそも幻臭で
無月かと 歩いている


二十八

はらわた煮えくりかえっているので
そこに生じらすを入れて
釜あげしらすにしたのだが めちゃめちゃ旨い
はらわた煮えくりかえっている


二十九

恋という魔法が
恋という呪いに変わったころ
私の頭の中に風が過ぎてすずしいけれど
何も告げずに 日の下を歩む


三十

無垢 と 無垢 との衝突
その火花
愚か と 愚か が口論しあっている
その先一番を歩いているあなたが好きです


三十一

短歌を何首も書き下す
毬つくように 毬つくように
石段の上 手をひいてやった真理子が跳ねると
真理子は月まで飛んでいってしまいました


三十二

役に立たない体は
万感の感興でもって嬉しそう
春の雨にうたれ ぬるい風うけて
役に立たない体は


三十三

太陽の中で愛しあう
あなたの為に魚をさばく
まな板は燃えた 包丁も燃えた
魚をおいしくいただいた


三十四

トマトを逆さから読むと
トマト だった
新聞紙を逆さから読むと
いったい何を伝えているのかわからない


三十五

雨ふる土曜日の
土の呼吸は苦しそう
昨日は 金曜日の呼吸
空気中微小 金粉が舞っていました


三十六

水が滴ろう としている
その影に 私のこころを置く
水が滴 して
私のこころの動悸が増す


三十七

私はずっと幸せでした
あのひとを見るまで
あなたはずっと幸せでしたでしょうか
私を見るまで


三十八

乳酸は苦く足を鈍らせた
からだを温水で打たせた もう眠ってしまおう
眼を閉じればおもいだす
日は西へたんぽぽの花照らしつつ


三十九

時正の日 日の 
そして宇宙のネジは回されきり
今朝から 焼けるようなこの腹へ
薬を飲み下すことはやめ あれこれもない


四十

休日 日も休み
一日 夜だった
大きな月を眺めつつ
気づいたら月の中に突入していた


四十一

中原中也は歩いて 書いた
海鳥はテクテク歩いて 飛んだ
児は 泣きながら歩いていた
母はそれを眺めて 息絶えた


四十二

幸福な月曜日たちから
血の味がする
ワンマンバスの扉が開く
下りるものも入るものもない


四十三

くりかえして くりかえして
私は透明になっていく
透明な無垢として
花明かりの明かりとなった


四十四

灰皿へ落とした煙草の吸殻
容器に補充したボディ・シャンプー
私は 俺の生は
露悪と清涼でなり 詩とし成す


四十五

情報が錯綜 立ち止まるしかなかった
継続の信念しか 切符にはならなかった
今、車窓からきみの町を眺める
車窓には雨滴うつくしく、町をうつくしく思った


四十六

夢のなか天使をあやめて
私が天使になっていた
福音と、クリスチャンに下らないこと
告げずとも 世は暴言に溢れ膨張していく


四十七

孵らないヒヨコにとって 卵の中は世界
ヒヨコのまま 寝室 裸のランチを読んでいても良かった
ビートニクの朗読に、カートのノイズ・ギター
いま私はスーパー銭湯で、排水口の髪を取り除いている


四十八

空腹に錠を含むと 腹からカッカする
ふるえることのなくなった指
ふるえることのなくなった郊外の青空
山に 言霊はなく 蒸れた風が吹くだけ


四十九

フロイトの文献に於ける
私は肛門人間にあてはまる
口から肛門まで もう固いものは通さず
あれら 雲の滓を食べ 私は痛み荒んだベンチだ


五十

覚えていたメロディーはすべて塵になって
つまびくメロディーは はたから塵となって
落下しているメロディーを 拾い吹きあげて
これはポツポツとした花の明るさだ


 

文学極道

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