くちばしからくちばしへ海は渡された
とおいむかし
雨にみまわれた海水浴場での
くちのなかをころがる飴玉、そして月光
わたしとあなたは似たなやみを抱えて
まったく異なったよろこびを
欲してる、くるぶしをつたう水滴が鴎のかたちを
していて、きれい、まるでゆれる光の、足跡
ゆめの切断面にふちゃくした毛髪が、だれの
からだからぬけ落ちたものか
わからず、手のひらで耳をおおうと
聞こえる波のおと、それから森のなか
うっかり捨ててしまったものへのしゅうちゃく
おろかな部分について語り合う、影と影と
砂のような質感のやさしさを、爪の三日月で
すりつぶす、あなたは、海老、と言った
わたしは、それをひていした
耳の、奥底をはうあたたかな水の表面が
迎えるようにほつれはじめて
さいげつ、というひびき、瞼の裏側ではじける
貝殻と骨と、空洞のようにつめたい海風について
あなたは、さよなら、と言った
わたしは、それをこうていした
白い泡と、騒がしい、波打ち際で手をすすぐ
すすいでもすすいでも、そこにある体臭
生まれてから今までの出来事を、匂わすような
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選出作品
作品 - 20160314_204_8689p
- [優] 歳月 - あやめの花 (2016-03)
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歳月
あやめの花