中学生の頃母の背中を抱きしめたことがある
大きく見えていた背中は一人の小さな女の背中だった
母子家庭で
大黒柱として働いてきた母の背中
俺の腕の中で小さく収まっていた
疲れと睡眠不足が母の奥から感ぜられ
この中の小さな温もりさえ
消え入りそうな微かさで
オンボロ壁の静けさに巻かれていた
幼い頃見た夜空はまだ広かった
打ち上げられた花火の割れる音を聞いてはいた
食卓の上へ味噌ラーメンを並べていくと
親子はそこで向かい合っては厳かに
「いただきます。」と言った
夜のママの店はもう潰れかけていて
ためいきはただ夜よりも深く
シャッターから漏れていた
その頃真夜中の川を
魚が一匹跳んだ
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作品 - 20160229_988_8659p
- [佳] 夜 - おでん (2016-02)
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夜
おでん